見出し画像

『企業で「NFTをやりたい!」と思った時は必見。「直接利用と間接利用」で整理する』~【新しいWeb3ビジネスのアイディアのタネ】・Web3ニュース2022.6.27

■ベントレーがNFT発行へ

イギリスの高級自動車メーカー「Bentley Motors(ベントレー・モーターズ)」は2022年6月22日に、NFT市場に初参入して2022年9月に『208本限定のNFTドロップ』を実施することを発表しました。このNFTはPolygonのブロックチェーンを用いて発行される予定となっており、NFT保有者には「ユニークなアクセス」と「限定特典」が提供されると説明されています。

イギリスの高級車ブランド「ベントレー」がNFTを発行することを発表しました。そのNFTには「ユニークなアクセス」と「限定特典」というユーティリティが付与されるそうです。


■ベントレーNFTのユーティリティは?

ユーティリティの具体的な内容については現時点では明確にされていません。
セールス・マーケティング担当取締役であるアラン・ファビィー氏のコメントにヒントが示唆されています。

ベントレーのNFT参入は、Web 3.0空間への不可欠な第一歩となるでしょう。ベントレーは、NFC(非接触チップ)、オンラインゲーム、メタバースアプリケーション、組織全体でのブロックチェーン技術の使用など、他のデジタルプラットフォームも模索する予定です。ベントレーNFTの所有者は、近日中に発表される予定のコミュニティ限定の機会、報酬、およびユニークなユーティリティを利用することができます。
※ニュース原文ではNFCを「非腐食性チップ」と注釈されていましたが
明らかに誤りなので「非接触チップ」と修正しました。

上記から推測すると、
1.オンラインコミュニティへ参加するための会員権の機能
2.NFT保有者にドロップされるトークン報酬の提供
3.NFCチップを内蔵したカードデバイスでNFT所有を確認して入室・参加できるオフラインラウンジやイベントの提供
だろうと想像されます。

1.はDiscordではなくベントレーの世界観を表現した独自サイトにコミュニティ機能を構築するか、機が熟せばメタバース上にコミュニティが構築されるのだろうと思います。

2.はBAYCのAPEコインのような、NFTを手放すことなくNFTの価値を金銭的に享受できる仕組みが提供される予想で、ベントレーオーナーが満足するレベルならそれなりの金額が動くことを期待させます。

3.は上記のコメントの中でも「NFC」という単語だけが異質なので特別に取り上げました。NFCはフィジカルアイテムであり、NFTのユーティリティはオンラインに留まらないことを示唆しているのだろうという推測です。


■NFTのユーティリティは「直接利用と間接利用」にわけて考える

NFTに持たされるユーティリティはさまざまあり、これまでもいろんなものが試されてきました。

◆ NFTの間接利用モデル

最もシンプルなのはNFTをクラウドファンディングのように賛同者からお金を集めるために使い、「集められたお金でプロジェクトを実現するというユーティリティ」をNFT購入者に提供するという方法です。

NFT購入者は
・NFTを購入した、所有している、という満足感
・自分のお金によって望むプロジェクトが実現される
・フィジカルグッズが返礼についている場合はモノがもらえる
というユーティリティを享受します。

つまり「NFTを間接的に介して集金し、集まったお金がユーティリティとして機能する」というのがNFTの間接利用モデルです。


〇 間接モデルの利点

・NFTの形式が自由。
 スマートコントラクトは不要、ERC721である必要なし

・マーケティング的に「NFT」と言える。
 言っていいか、言って得するかは別ですが、「NFT」を発行すること自体は事実で、「NFT」という言葉を使ったほうが耳目を集めることは未だ事実です。

・NFTマーケットプレイスが自由。日本円決済可能。
 NFTの形式は何でもいいのでOpenSeaである必要がありません。日本円決済できる国内系NFTマーケットプレイスを使うことができ、暗号資産決済前提のマーケットプレイスよりは幅広い対象に参加してもらえます。
 特に日本国内の市場を対象にする場合、グローバルに集金する必要は必ずしもありませんので日本円決済の方がメリットがある場合があります。


× 間接モデルの欠点

・NFTである必然性がない
 クラウドファンディングとほぼ同じなのでNFTである必然性がありません。
 必然性があるとしたら返礼品がNFT=デジタルアイテムなので在庫・発送・送料・破損交換・個人情報管理などが不要になることでしょう。
 運営にとっては大きなメリットですが、NFTの購入者にとってはNFTである必然性を感じづらく返礼品が弱いと感じる恐れがあります。
 その点に不安を感じてフィジカルの返礼品を用意すると上記の運営にとってのメリットを失いますのでますますNFTである必然性がなくなります。

・NFTの二次流通が発生しない
 「NFTを持っていると〇〇できる」という便益がないため、基本的に一次販売でおしまいです。二次流通で手に入れたいというニーズも発生しませんので二次転売しても売れません。
 二次流通しないということは転売時のロイヤリティが販売元に入ってこず、継続的な収益につながらないということにもなります。
 アート的価値による値上がり期待から二次流通が起きるものもありますが、アート価値を狙いに行くのは難しいこと、再現性が低いこと、NFTアートでもコミュニティへの参加権というユーティリティを持たせるのが現在では一般的でコミュニティなしでは二次流通が生まれないのが現状です。

・偽NFTのレッテルを貼られる恐れがある
 必然性のないNFTや純度の低いNFTは、Web3・クリプト民から反発を受ける恐れがあります。マーケティング的に「NFT」という用語を使いたいだけだと捉えられると悪評が立てられて逆効果になる恐れもあります。

・ファン、応援者が「NFT」が分からず賛同されない恐れがある
 逆にWeb3・クリプトからまだ縁遠い、けれどプロジェクトには本来賛同してくれそうなファンからは「NFT」が伝わらず賛同してもらえなくなる恐れがあります。
 彼らをメインターゲットにするならば「NFT」にこだわらず彼らが望むものが何なのかを考えて返礼品にした方がよいでしょう。

メリット、デメリットはあるものの、お金を通じて間接的にNFTを利用するのもひとつの方法です。大切なのはわかって使うこと。間違ったNFTの使い方だという指摘に、今はこれがベストな方法であると説明できることが重要です。


◆ NFTの直接利用モデル

今回のベントレーもこちらの直接利用モデルです。
つまりNFTを持っていると〇〇できる、というのを機能的に実装して活用する方法です。

NFT購入者は
・「NFTを持っていると利用できる」という会員権としての機能が使える
・そのサービスが魅力的であればNFTの価格が上がり、転売益を期待できる
・使えるサービスが自分にとって不要になった場合、NFTを売却することで原資回収を図ることができる
というユーティリティを享受します。

つまり「NFTを外部サービスとシステム連携することで真に所有していることが確認できること、所有権の移転を記録できることで、会員権として機能させる」というのがNFTの直接利用モデルです。


〇直接モデルの利点

・NFTを所有している人を特定でき、機能的に連携できる
 NFTを持っている人だけが入れる、もらえる、を外部サービスで実現することができます。
 Discordであれば限定ルームの設定、メタバースでは土地やアバターの売買、VIPルームへの入室、人にお土産やプレゼントを渡す、など、これらは間接モデルでは実現できません。機能的に所有が確認できなければならず、Web2的なユーザーデータベースで実現するか、NFTを使うならウォレットにNFTがあるかどうかを確認する機能を実装することで実現可能になります。

・いわゆる「本物のNFT」にしやすい
 所有者情報を外部から参照するためにはMetaMaskなどにNFTが格納されEtherscanなどで中身が確認できる必要があります。またNFT自体に機能を持たせる場合は独自コントラクトを記述したNFTをMintして販売する必要があります。
 プライベートチェーン系NFTマーケットプレイスでは独自コントラクトのNFTが販売できない場合がほとんどで、必然的にOpenSeaやMagicEdenなどパブリックチェーン系のNFTマーケットプレイスで取り扱い可能な「本物のNFT」とすることが必要になります。
 そのためWeb3・クリプト民から「本物」だと認定される純度の高いNFTをリリースすることができます。

・NFTである必然性を作りやすい
 NFTじゃなくてもいいよね、と感じさせてしまうと購入者はいくら日本円決済で買いやすいとしても躊躇してしまいます。
 NFT自体がきちんと使える機能を持っていることでNFTの価値が理解されやすくなり、購入されやすくなります。


× 直接利用モデルの欠点

・NFTを連携させる外部機能を開発する必要がある
 外部機能の開発には当然コストがかかります。
 NFTを作って売ろう!という発端動機以上に企画面に力を入れる必要もあり、企業でNFTプロジェクトをやろうとする時は「単に売る」より稟議を通すのが大変になります。

・市場が限定される
 日本ではまだまだ暗号資産決済でNFTを購入できる人はごく少数です。1億2600万人いる日本の人口の中で純度の高いNFTを買える人はわずか8000人しかいないという推定もあります。
 わずか8000人相手にビジネスを成立させるのは非常に困難ですし、じゃあ海外に向けてセールスできるかというとグローバルマーケティング自体が非常に難易度が高く、ユーザーサポート面も含めて多言語・多文化の対応ができる体制を構築すること自体が困難な場合が多いと思います。

・NFTでなければより簡単に安く作れる機能が多い
 またも「NFTじゃなくてもいいよね問題」です。
 会員権としての機能を持たせようだとか、イベントに参加できる永年パスポートにしようだとかの機能はNFTでない方が今のところ開発が簡単です。
 二次流通にしても、運営側が買い取る/自社サイトの中で売買機能を提供するなどの方法で実現可能です。
 自律分散型で運営が関与しない価値づけをするというポリシーがなければ、機能やサービスを実現するだけならWeb2的な作り方でもできてしまいます。NFTで実現するには強い信念が必要です。


■NFTのユーティリティは時代に合わせて柔軟に

たとえばメタバースで使えるNFTの作り方に規格や互換性が定義されるようになった時代であれば、NFT所有者に提供できる機能もメタバースプラットフォーム側で開発がされ、利用するだけになっているはずです。

Discordに代わる、もっと一般人が使いやすいNFT会員権が使えるプラットフォームも今後作られるでしょう。

国内系に多いプライベートチェーン系NFTマーケットプレイスも、販売だけでなくコミュニティや認証機能を提供するように機能発展するかもしれません。

今はできない、のであれば、今できることをやったほうが得策です。
NFTの打席に立つ練習としてトライするのであれば間接利用モデルでも限定的な直接利用モデルでもいい。

大切なのは、わかって使うこと、だと思います。

NFTをやりたい、と漠然と思った時に、間接利用モデル・直接利用モデルからやりたいことを整理していくと、今取り組める範囲がおのずと決まります。

外部サービスに機能開発する予算があるのか・ないのか。
ターゲットにする人数や理解度は。
海外アプローチできるのか・できないのか。

NFTを勉強してNFTらしいことを想像するとどうしても直接利用モデルになります。ベントレーやBAYCのようにFT:ファンジブルトークンまで絡めようとすると現状の日本国内法では難しい面も多い。

だからNFTはやらない。も時代の見極めとしてひとつの判断ですし、
だからNFTで今やれることをやる、も慧眼です。

NFTや暗号資産の理解・利用は時代に合わせて進化・普及していくはずなので、柔軟に取り組みましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?