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『ゲームバランスだけじゃダメ。「to Earn」トークノミクスは外的要因の考慮が必要』~【新しいWeb3ビジネスのアイディアのタネ】・Web3ニュース2022.7.20

■ゲームバランス以外に左右される「to Earn」

STEPNにE国が追加されました。しかし先行のS国・B国がすでに「なにをやってもEarnできない」という経済環境になっているため、E国で歩いて稼ごうという期待をしているユーザーはごく少数、eGSTのトークン売買で稼ごうという人の影響力が圧倒的なように感じます。

今回は「to Earn」はゲーム性で経済設計する部分「以外」も考慮しなければならないという話です。


本来STEPNのゲーム内トークノミクス設計

1.シューズNFTを購入する
2.購入した靴で歩いてGSTを稼ぐ
3.稼いだGSTをシューズのレベル上げで消費する
4.シューズの稼ぎが大きくなり短期でGSTを多く稼げるようになったあと、さらにGSTを稼げるようにシューズを買い増してエナジーを増やす
5.複数のシューズから新しいシューズをMintして、売って稼ぐ or さらにシューズを増やしてエナジーを増やす
6.シューズの性能が上限に近づいてきたら、よりレアリティの高いシューズを買う or Gemでさらなる性能アップを目指す

が基本線でした。

2.の「歩いて稼ぐ」をユーザーがやっているうちは期間あたりの出金は極端に大きくはなりません。1.の入金額を2.で分割返済している状態なので時間をかけさせることができます。


想定していないアクションに左右されるのがGameFi

STEPNで最初に起きたゲーム設計外の行動は「Mint工場」でした。

・シューズを量産販売したほうが短期で稼げる
・シューズを量産するために必要なGSTは歩かなくてもDEXで直接買うことができる

ということに気づいた人が、シューズを大量生産して販売する「Mint工場」で稼ぎ始めました。
歩かないで稼ぐ方法の誕生です。

Mint工場がシューズを量産するとシューズの価格が下がります。

・STEPNが注目された時期と重なり「高かったシューズが安くなった!」と喜んでいた人も多かった。
・シューズ売買の6%が入り運営も儲かる。
・Mint工場がGSTを大量に買うおかげでGSTも値上がりする。
・GSTが高値だと歩いて稼げる期待から新規ユーザーが多く参入する。
・量産されたシューズを多数の新規ユーザーが買う。
・既存ユーザーもシューズを増やす。

5月ゴールデンウィーク前後をピークにMint工場と新規ユーザー増のサイクルが発生していました。

しかし、Mint工場は本来のゲーム設計にはないアクションです。

STEPNの元々のゲーム設計の弱点である「新規ユーザーの増加に依存する」という課題はMint工場も同じです。
同じ弱点なのにMint工場の場合は新規ユーザーの増加スピードを加速させてしまいました。つまり寿命を縮めてしまいました。


本来のゲーム設計にないアクションの対処はスピードが大事

感覚的にはかなり長い期間Mint工場は対策されず放置された印象があります。
STEPNが注目され始めた2月から現在の7月まで5カ月あるうちの3か月はMint工場で稼げていたはずです。

対処方法もよくありませんでした。
Mint工場が多かった中国でGPSを機能させなくする「国ごと締め出し」という対策を打ち出した結果、Mint工場が持っていたシューズやGSTが一気に売り出されてしまい相場急落を招きました。

結果的に高値でシューズを買い、GST相場が高ければ原資回収できると期待していたユーザーを失望させました。

市場急落・既存ユーザーの失望は新規ユーザーの参入を減らします。元々の弱点だった「新規ユーザー増に依存」に直接的なダメージを与えました。

対策が遅れたのは、運営がMint工場で儲かって浮かれてしまったからではないかと思います。ユーザーも儲かる期待で浮かれていました。

しかし本来のゲーム設計にないアクションはもっと早く手を打つべきでした。対策が早ければハードランディングな「国ごと締め出し」以外の方法が採れた可能性もあります。


トークン売買自体で稼ぐ方が安全で儲かる?

★GSTをトレードする
★GMTをトレードする

▲NFT(靴・箱・一応ジェム)をトレードする

▲▲箱を開封する
▲▲靴の加工販売をする

✕靴の合成パチンコループをする
✕✕靴を買って歩く

ちょっとマーク変えましたけどわかりますよね!
これは、靴っていう爆弾を自分で抱える必要時間の長さなんです。
わざわざ最も長い時間爆弾を抱える必要がある「靴買って歩く」をやらなくても
これだけの稼ぎ方があるんですよ?

GameFiを純粋に投資対象として見た時に最も合理的なムーブは「歩くな!」です。

投機家・投資家や経済設計のプロから見たらGameFiのトークン設計なんてイージーゲーム。ゲーム性の穴を突いた「Mint工場」という裏技ですら面倒で危険だと考え、純粋にGSTとGMTの売買のみを行うことで収益を上げます。

E国が追加になれば、E国への参入権を得るために5足Burnしてレアリティ2段階アップを狙う「エンハンス」をガンバルのではなく、eGSTを買いに行くのみです。

それも自動的に売買するbotを作って対応。一般公開もしてホルダーを増やし、短期的に買い圧を上げます。

結果、記事冒頭の動画でご紹介したような大爆騰が発生しました。

それに対して運営がGSTを無限発行して売り浴びせすることで値段を下げようとする暴挙に出ました。相手はbotなので資金の許す限り買い続けます。

結果、1eGSTが700ドルを超えるという異常事態が起きました。

そしてE国が始まったばかりだというのに、Etherscanによると何万枚ものeGSTを持っている人が大量にいるという状態に。この人たちが売りを仕掛けると簡単に値動きしてしまう状況です。

プレイヤーとしてE国参入を考えていた人からも、初日にすべてのシューズを売却して撤退した報告が相次ぎました。


投資益を上げる目的であればトークン自体の売買のみを行うことは合理的です。正しい。しかしトークン投資家がGameFiに与える影響が大きすぎて、本来のゲーム設計をいくら突き詰めても外的要因で振り回されてしまうのが現状のようです。


「Earn・稼ぐ」に注目させすぎると投機筋を呼び込みファンを離脱させる

STEPNは「歩いて稼ぐ」というユニークさや面白さ、実際に健康習慣が身に付いたりユーザー同士のファンコミュニティが作られるなど、ゲームとして非常によくできていたと思います。

しかしMint工場で運営が爆益に踊らされたり、ゲーム性のブラッシュアップではなく新レルムで新規NFT販売に注力したりと、ファンではなくお金の方を向いてしまったことで永続性を失いました。

ゲーム設計とは違う部分がゲーム全体に影響を及ぼしてしまうのがWeb3・GameFiの独特な部分です。

Web2以前のゲームであればチート扱いして中央集権的にコントロールしていたのかもしれませんが、DEXでトークン売買することはコントロールできません。

STEPNもゲーム自体は中央集権的に運営されているのに、非中央集権な部分で崩壊するのは皮肉なものです。まだWeb3が成熟していない証。


「Earn・稼ぐ」に注目させすぎると稼げなくなった時にユーザーが離れる、とはよく言われますが、それはゲーム性とのバランスで語られていました。

仮に稼げなくなってもゲームとして楽しい・役立つ、などがあれば続けてもらえる、だとか、稼ぎに直結しない収益源を得ることが運営として大事、ファンに支えてもらえるサービスを目指すべきだ、など。

しかしもっと大きな問題は投機筋。「稼げる」で大きく注目を浴びると必ず投機筋が集まります。IDO/IEOさせたゲーム内トークンで「to Earn」を提供すると、ゲーム外でトークンの価値を変動させられて、結果ゲームルールでは対処できないほどの影響が出る場合があるということをSTEPNのE国で改めて学びました。

「永続性のあるGameFi」を目指すためにゲーム性とファンを大事にすることは重要。そのために想定外の逸脱したゲームプレイは素早く対処することが重要。それに加えてトークン売買の影響をどう設計に織り込むかが非常に重要。難しい課題ですがトライしていきたいと思います。

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