『NFTゲーム化「メイプルストーリーN」の巧妙なweb3訴求方法は学びが多い』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.10.3
■NFTゲーム化予定、MMOの金字塔「メイプルストーリーN」とは
超有名タイトル『メイプルストーリー』のNFTゲーム化が発表されました。Play to Earn要素やゲーム内アイテムのNFT化などは想定通りですが、BIG IPを使ってネクソン社がBCGをリリースするにあたって取ったポジションが「非中央集権化」。
これはファンやプレイヤーなど「外の人」が願うことはあっても、実際にネクソン社のような運営自身が宣言するのは非常にチャレンジングなことです。営利法人ですからね。一見すると利益を手放すように伝わるかもしれませんし、実際今までの利益独占構造とは違うモデルになります。
こんな規模感の超有名・超人気タイトルです。日本で言うとドラクエ・スクエニが非中央集権化を宣言するようなもの、でしょうか。
■ネクソン社の「非中央集権化」の使い方
ブロックチェーンゲーム化するのであれば、ブロックチェーンそのものが持つ性質を活かす方向で設計しようというのが最初の発想にあることが伺えます。
NFTが売買され、売買するマーケットプレイスの手数料で稼ぐ、は運営として当然やるでしょう。しかしその手数料を運営であるネクソン社が独占するわけではなく「貢献した開発者」が分配を受け取る、と第三者的な言葉遣いをしています。
[透明性]ネクソン社自身も開発者の一部になる
ネクソン社が自身も「貢献した開発者」のひとりにすぎない、という建付けにしています。非中央集権っぽいですよね。しかし「貢献度に応じて公平に」というのはわりと言葉のマジックであることに留意が必要です。
最初に開発予算を投じるリスクを背負い、ネクソン社が組成した開発チームが初期の大半のシステムを構築します。そのため初期の「貢献した開発者」はネクソン社内の開発チームが100%です。
「貢献度に応じて公平な分配」と表現してはいますが、公平に分配するからこそ、初期はネクソン開発チームが100%であることを織り込んでいると思われます。
その後、一般の開発者が徐々に入っていく仕組みを設けることでネクソン社内の開発チームが貢献する割合が徐々に薄められていくような構造になっています。
将来の利益を手放しているように見えますが、これもネクソン社から見ても経済合理性が高い仕組みです。
初期の開発タイミングが一番大勢のスタッフが関わります。そして初期のチームがそのまま維持されるわけではなく、多くの人は次の開発プロジェクトに異動します。
しかし継続的な開発は必要です。
メイプルストーリーのファンが開発体制を維持してくれて、かつ「生み出された価値の分配」という言い方で固定費を開発者に払う必要がなく、継続開発費を変動費化することができるならネクソン社にとってもメリットがあります。
貢献度が高さを測る仕組みにも依りますが、人件費をかけずにゲームが維持できるメリットは非常に大きいものです。
[透明性]マーケットプレイスの運営やアイテム販売の主体性を手放す
これも面白いギミックです。
売買手数料は発生させるものの、それを受け取るのは貢献者全員でありネクソン社が報酬を独占することはないということは前述のとおりです。ただし事実上、初期は100%ネクソン社が売り上げを取り、徐々に一部を他者に分配するというモデルではあります。独占することはない、が大半を他人に渡す、と伝わることを狙う言葉のマジック。
次に、何を・いくらで・いつ売るかなどの計画性を一般開放しているように見えるのがこのマーケットプレイスのP2P取引です。
無限にNFTが増え続けて経済崩壊したSTEPNの反省から、中央集権的に数量や販売タイミングをコントロールしたほうがいいのではないかという発想もあります。
またゲームプランニング的にも新しいイベントや新アイテムに盛り込む要素、パラメータバランスなどは運営の最重要機密にしておいた方が盛り上がりを演出しやすく、また「戦力インフレでのゲーム崩壊」を防ぐことができる、というのが従来の発想です。
しかしこの計画性を徐々に手放すつもりのようです。
アイテムのバランスはファンが企画した方が適切になると信じるのもひとつの手です。ガチャを回させたい運営が利益重視で投入したアイテムによって一気に崩壊するケースも過去たくさんあったため、運営任せが必ずしもうまく行くわけではありませんし。
何より、ユーザーがP2Pで価格を設定している状況、運営が値付けに関与していない状況は「賭博法の回避」に効果的です。
運営が賭場を運営していると見なされず、ユーザーが自由に付けた「相場」によって仮に損をした人が発生したとしても得喪の「喪」が発生したとは言えない状況にすれば、かなり強めのギャンブル要素を入れることもできるかもしれません。
[開かれた生態系]IPの解放で二次創作ゲームの開発を促す
メイプルストーリーをPC版とモバイル版とでマルチプラットフォーム化しますよ、だけでは弱かった相互運用性を、勝手アプリも認めますよ、まで拡張しています。
ただし完全な「勝手」アプリではないようです。
人気度や貢献度が測定できるということは、システム的な連携を義務化しているということです。場合によっては不適切なゲームだと見なしてMOD Nへの接続を停止することもあり得るでしょう。
メイプルストーリー本体もMOD Nも同じ経済圏に統合され、「収益を分配する」というエコシステムに集約されることから初期に最も貢献したネクソン社が最も収益を得るという構造を「ユーザーが自由に開発できる」という非中央集権的な表現に転換しているのも巧さを感じます。
SDKも同様です。
オリジナルに開発したゲームやサービスも、その収益を開発者自身が独占することはできません。事実上のIP利用料のようなかたちで税金が徴収されます。いや場合によっては「収益の分配」なのでIP利用料を明確に払った方がよかったような分配比率になる可能性だってあります。
運営会社だけで企画していても思いつかないこと、実行できないことはたくさんありますので、ファンなど一般に企画・開発を開放するのは結構よい施策だと思います。
ネクソン社としても、成功したら利益の一部を払い、失敗しても開発費用を払う必要はない、というモデルとして合理的です。
[価値の保存]ネクソン社がなくなっても維持し続ける
メイプルストーリーの「ブロックチェーンデータ」が消滅したらさすがにNFTもへったくれもないと思いますが(笑)、収益悪化でゲームが終了するのはよくあることで、その判断は運営会社のみで行うのがこれまででした。
期待したいのは、[開かれた生態系]の中で関わった一般の開発者や応援しているファンによる判断、ガバナンスによって継続させられるような永続性です。
見る限り、MOD NやSDK、価値貢献の評価と利益分配の仕組みの部分が巧妙に中央集権化されている印象です。言葉遣いでweb3感を醸し出している感が強いため、本気で非中央集権化を目指すのであればこれらすべてをDAO化すると明言してほしいなと感じます。
そうしなければMOD NやSDKを動作させている中央のサーバが停止するとサービスやエコシステムはすべて停止します。NFTだからネクソン社がなくなっても価値を保存できる、なんてことはありません。
いろんなゲームタイトルを横断した相互運用性・インターオペラビリティを広げていくのはNFTやトークンの価値を上げることに貢献するので良いことだとは思います。
かたや、メイプルストーリーの巧妙な一般巻き込み型エコシステムの横展に留まるのであれば、真に非中央集権化を目指す語り口と齟齬があるように感じます。
市場に与えるインパクト
巧妙な中央集権隠しのように見える、が私の結論ではあるものの、すべてを運営が提供し、ユーザーはいち利用者に留まるという従来型ゲームよりずっと思想的に開かれているし可能性を感じるのは間違いありません。
現実的に営利法人がweb3思想を組み入れられるのはこのあたりのラインじゃないかと思いますし。
このモデルが成功することで上記のように市場参入を決める上場企業が増加すれば、web3、NFT、ブロックチェーンの市場は大きくなります。まだブロックチェーンに触れたことがない多くの人がコチラ側に来るようになるとすれば、web3業界全体が恩恵を受けます。
■自らのプロジェクトに当てはめてみよう
「世界規模で拡大していく仮想世界を構築する」とネクソン社が意思を持って発表していることからもGAFAM的懸念を抱かざるを得ないと感じます。
しかし将来もっと純度高く非中央集権化を果たすかもしれません。
はじめから完全な非中央集権化を謳って成功させるのは相当難しいのが実情です。初期は強い運営が必要ですし、開発費の投資だって必要です。どこまで本気の「非中央集権化」なのかはこれからが見ものですが、「透明性」「開かれた生態系」「価値の保存」の3つを謳ったことは素晴らしいと思います。
Web2的プロジェクトをやられている方はこの3つを入れたらweb3的なアプローチが思いつくかもしれませんし、今web3プロジェクトをやっている方はこの3つの視点から再点検してWeb2的ポイントを改めることができるかもしれません。
そしてぶっちゃけ、この巧妙なPRの仕方自体も参考になります。マスアダプションには必要な建前。良し悪しの感じ方は人それぞれかもしれませんが、メイプルストーリーNが最終的に良い成功事例になることを願っています。
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