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パン屋のおねえさん

ファンの人がいる。
私のファンの人ではなく、
私がファンの人が、生活の中にいる。
行きつけのお店や、電車でよく見かける人など、
見かけると嬉しくなったり元気になったりすることが私にはよくあって、
気づいたらその人のファンになっている。

以前勤めていた職場の近くにパン屋さんがあった。
地下街の通りにあって、オープンケースがカウンターの小さなお店だ。
そのパン屋さんの前を通って職場に毎日向かっていたのだが、私はそのパン屋さんのおねえさんのファンだった。

顔は普通。雰囲気も普通。何というかフツーな感じ。絵で描くと楕円に必要最小限の点と線で構成されてて、正直、地味。
しかし、フツーで地味ではあるが、接客対応がとても丁寧で明るく、元気であった。

「いらっしゃいませ~、サンドイッチ、メロンパン、いかがですか?(笑顔)」
「どうもありがとうございます!ま、またお越しくださいませっ(超笑顔)」
「このクリームパン、私も大好きで美味しいですよ(地味だけど満点笑顔)」

地味ながら人が良さそうで、一生懸命な、直向きという言葉が誰よりも似合いそうなおねえさんを朝から目の当たりにし、毎日元気を頂いていたのである。
おねえさんのファンになった私は、いつしかおねえさんの日常ストーリーを想像し始めた。

おねえさんには高校生の弟と、かわいい中学生の妹がいて、おねえさんは兄妹の面倒と体の弱いお母さんを助けながら、毎日頑張って生きている。 
弟は反抗期で、
おねえさん「ヒロシ、ご飯は?」
ヒロシ「うっせえんだよ、いらねぇんだよそんなもん!」
京子(妹)「お兄ちゃん、またおねえちゃんにあんな言い方して!」
おねえさん「いいのよ、ヒロシはほんとは心の優しいいい子なんだから、、、」

パン屋の職場では、江口のりこ似のマネージャーにいびられ、顔はかわいいけど要領よくサボる学生バイト女子が言うことを聞かず、ときどきため息をつくこともあるおねえさん。
江口のりこ(仮)「最近、売上伸びてないわよ!どういうこと!?」
おねえさん「す、すいません!」

そんな想像(妄想)ストーリーが私の中で出来上がってしまうと、毎朝パン屋の前を通るときには、
(おねえさん、きょうも頑張ってえらいわ!)
(弟のヒロシは生意気だけど、きっとおねえさんの味方よ!今日もファイト!)
おねえさんが少しお疲れに見えたときは、
(おねえさん大丈夫?江口のりこ(仮)また機嫌悪かったのね!気にしないでね!若い子が言うこと聞かないのは私もわかるわ!でもきっとお客様はみんなおねえさんを応援してるからね!)
などと、私は心の中でつぶやきながら職場に向かうのである。

ある日、おねえさんの姿がパン屋のカウンターに見えないので、お休みかな?と思っていたら、あくる日も見えない。おねえさん風邪かしら?ヒロシが悪さして学校に呼び出されたかしら?などと考えながら、しかしその次の日もその次の日も姿が見えない。

そしてようやく認識した。

パン屋辞めた?

ガーーーン!!(古っ)
でもガーーーン!!ショック!!
おねえさんがいない!

私に元気を与えてくれた、
あの一生懸命でひたむきの権化のようなおねえさんがいなくなった。
かなし。。。

それからというものパン屋の前を通るときはさみしくなって、しょんぼりしながら職場へ向かっていた。

先日、おねえさんがかつて働いていたパン屋の近くまで用事があり、おねえさんを思い出した。

あれから何年かたったけど、
あのパン屋のおねえさん、元気にしてるかしら。
お友達でも知り合いでも全くなかったけど。
ヒロシも京子もいるかどうか知らんけど(笑)
でも私に元気を毎朝心を明るくしてくれたことは事実。
おねえさんありがとう!

(追記,ちなみに、江口のりこさんは好きです)

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