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木製のパズルやゲームの開発に熱中して Development Story of Wooden Puzzles & Games (第1話)

はじめに


 筆者は真珠湾攻撃の2か月半前に満州(中国)で生まれ、5歳で引き揚げてきて、何とか80才を迎えました。
   40数年の会社勤めの後、65才での退任を機に日曜画家の経験から玉野市宇野の駅東創庫にアトリエを借りて絵描きを始めました。
 2015年5月のゴールデンウイークに[デニムキャンバスに描くイタリア紀行]個展を終えて一段落した頃、近くの本屋さんで「大人の賢くなるパズル」を見つけました。父親が認知症を発症した年齢に近づいてきたので、気になっていたのです。 
 買って帰ってやってみると、面白くて100問を全部解いてしまいました。
 家内も興味をもってやりたいと言うので消しゴムで消しにかかりましたが、どうしても書き汚れが消えずあきらめてしまいました。
 そこで、鉛筆を使わず何回も、何人でも遊べる方法を考えることにしました。
 最初は解答用の数字駒を作りメモ用紙に仮の数字を書いて木駒を並べていましたが、駒の側面にあらかじめ解答候補の数字を配しておくことを思いつきました。
 これをきっかけに木の駒のパズルやゲームの開発に没頭するようになりました。

 

 目次


第1章     ペンシルパズルを木製パズルセットに

 1、計算方陣パズルセットの開発

 2、クロスワードパズルセットの開発

 3、ナンプレ(数独)と共用の9×9マスパズルセットの開発

 4、自力で実用新案出願から日本特許取得

第2章 トランプ大統領(前)にあやかって、トランプゲームを木の駒で

 1、トランプタワー(ジェンガとトランプゲームの合体ゲーム)の開発

 2、正多角形トランプゲームの開発

 3、木製正12面体の販売

第3章 孫が興味を持ちそうな将棋駒を

 1、ニャンコ将棋駒の開発

 2、四つ折り将棋盤の開発

 3、箱型駒収納将棋盤の開発

第4章 人気のクワルト(4目並べ)を5目並べにできないか

 1、積み木でクワルトをコピーして、孫と対戦

 2、5×5マスで5目並べに挑戦

 3,6×6マス、36ピースで[アラカルト]完成

 4、同一形状の駒でマルチ5目並べができないか

 5、8×8マス、64ピースで[マルゴ/マルゴニア]アブストラクトゲーム開発

第5章 神ニャン駒40個1セットで十盤勝負

 1、チェスゲーム用平面型ニャンコデザインの開発

 2、神ニャン駒の完成

 3、10種類のアブストラクト(令和十盤勝負)

 4,フレキシブル盤の開発

第6章 組み立てキューブパズル(箱詰めパズル)への参入

 1、キャビティキューブパズルの開発

 2、シンメトリーボックスパズル

 3,Diagonal Symmetry Box puzzle

第7章 転がしても崩れないダイスパズル

 1、3X組み木ダイスパズルの開発

 2、4X組み木ダイスパズルの開発

第8章 3種類のキューブパズル組み立て方法

 1、スライスキューブの開発

 2、3種類すべて(ゴールデントリオ)組み立て可能なピースセレクション

 3、ゴールデントリオを同時に組み立てる

 4、6方向カラーキューブパズル

第9章 数式キューブパズルとの出会い

 1、3 cube + 4 cube + 5 cube = 6 cube

 2、数式キューブをゴールデントリオで挑戦

第10章 究極の組み立てキューブパズルを求めて

 1、マルチ組立てキューブMulti Assemble Cube

   2、改良数式MAC

 3、究極のMAC

  

あとがき


第1章 ペンシルパズルを木製パズルセットに


 1、計算方陣パズルセットの開発

  1)、計算方陣パズルとは
   計算方陣パズルとはn×n(nは3以上)のマス目に1からnの数字が各行、各列に一度だけ現れるように並んだ解答(ラテン方陣)を得るためのヒントを、区切られたマスグループの四則演算(+、-、×、÷)の答えで示したパズルのことである。
 2004年に算数教室(塾)を主宰する宮本哲也氏が足し算だけの「計算ブロック」を考案し、教材とされたのが始まりとされている。
2006年に学研から同氏著作の「賢くなるパズル」が出版され、「KenKen」と命名された英語版により世界的に普及した。KenKenは2009年からニューヨークタイムズに毎週掲載され、その後、宮本氏もニューヨークに進出されている.

(裏表紙より)

  2)、4×4マス、5×5マス、6×6マスパズルセットの開発
   筆記具の代わりに、直方体の上面に数字を表示し、側面に表示の文字と関連づけられた(数字群に表面の数字を含む)、マス目を埋める候補の数字を配した駒と、問題用紙を置いてその上でプレーすることも出来るマス目のある並べ台と、収納箱をセットにした、携帯にも便利なパズルゲームセットの開発をめざした。
 まず、年少者や高齢者などもゲーム感覚で楽しくプレーすることができるように、3×3の問題も解ける、4×4マスの木製のセットを試作した。
 仮置きの数字群は12から34までの2桁が6種類と、3桁の123、124、134、234と、列(または行)をまたがるL型マスグループ用の112から344までの12種類だが、出来るだけ多く重複させるため予備駒4個を追加している。
 駒の裏側は表の数字だけのマーク(イラスト)を表示して、3×3の問題の場合は裏返して余分のマスを埋めることにした。
 駒の形状は表面の正方形を最終的には長方形にして、3桁は長辺の側面に配することにした。

(試作1号)

    

(レーザー加工に彩色)

   5×5マスセットも試作したが、6×6マスセットで代用できるので4×4セットの手法でB5の大きさにして6×6マスセットを制作した。
 5×5の問題は下の写真右のスイカ(緑)の駒をすべて裏側にすればプレーできるし、さらにオレンジの駒も同様にすれば4×4の問題もプレーできる。

  

 (レーザー加工に彩色)

 

(レーザー加工品とタイ製量産品)

  3)、元建具屋の親方との出会い
   駒とゲーム盤兼用の収納箱の木工は、自作では商品にならないので、いろいろ木工所を当たっていたが、この道60年の元建具屋の親方、倉敷市の山下さん(8歳年上)に巡り合いました。妥協を許さない、熟練の技で、軽くて、丈夫な逸品となり、将棋のように親子代々使えそうだ。
 岡山県は美作材のブランドでヒノキの生産量が日本一なので、駒とゲーム盤(箱)の枠木は手ざわりと香りのよいヒノキの間伐材に決めたが、板材は反りの問題と印字性から色白の科合板(シナベニヤ)にした。 

  4)、レーザー加工の習得
   レーザー加工は倉敷市水島にある瀬戸内エンジニアリングのファブラボで、貸してもらうことができた。使い方の講習を受けて、会員となれば時間制でレンタルできるのだが、丸山社長のご厚意で機械の実稼働時間当たりにしてもらった。実稼働時間を短くするために、切断モードのデーター(ベクターデータ)でフォーカスをずらして線を太くする彫刻手法を見い出した。
 データー作成とイラストのデザインは無料のInkscapeソフトを習得した。

  5)、タイのブルーリボン社に生産委託
   2017年2月に、20年前タイ国で創立された合弁会社の記念式典に、初代社長として招待された。その際、帰国前日にタイの友人に依頼していた木製おもちゃメーカーのBlue Ribbon Toys 社を訪問した。
 実は、2015年に開発した木製数字パズルセットを国際特許出願していたら、特許性ありとの認定を受けたので商品化するために海外メーカーを探していた。しかし、中国やタイの他のメーカーは最低注文数が5000個~1万個でないと請け合ってくれなかったのだ。
 同じ華僑系の友人に同行してもらったお陰で、快く話を聞いてもらい、工場見学の後、社長ご夫妻から昼食までご馳走になった。生産委託についても、最低500セットでの見積もりをしてもらい、OKなら無償で試作もしてもらうことになった。
 また、木材はエコ素材である加熱強化天然ラバーウッドだけ、商品は子供向けだけ、マーケットはUSAとEU だけというシンプルな経営方針にも感心した。
 印字はシルクスクリーン印刷で、コストダウンのため色数をおさえた。
 帰国してすぐに見積りが届いて契約が成立した。2回の試作を経て年末には量産品が届いた。6x6マス計算パズルセット[アリすパズブロ一休]のデビューである。

   参考)ブルーリボントイ社(fb:Blue Ribbon Toys)
   1989年に設立され、環境に優しく安全な、高品質の木製おもちゃと子供用家具を作成し、子供さんの心とスキルを楽しませ、挑戦し、成長させるように設計されています。
 私たちの木のおもちゃと子供用家具は、子供たちに安全であり、適用される米国の規制安全基準とヨーロッパのEN-71安全基準を満たしていることを確認するために徹底的にテストされています。
 ブルーリボンのおもちゃは、持続可能な天然ラバーウッドから作られ、無害な塗料のみを使用して塗装されているため、子供たちの健康と喜びに最高の品質と安全性をもたらします。

  6)、アリす等式方陣とアリす等式ナンプレの新開発 
      計算パズルの各升目グループの数字群を導くヒントの演算問題は、従来、たし算だけか、加、減、乗、除の一つだけを別々にしか使用できなかったが、□×□+□=mのように演算式の値や答の□内の数字を導き出す算数問題を各グループのマス目に表示した問題用紙を使用することにより、等式を正確に理解できるし、問題の幅を広げることが出来るようにした。
 問題の様式は太枠のマスブロックのない等式方陣と6個の太枠にも1から6の数字を追加した等式ナンプレがある。


  7)、アリすパズブロセットの遊び方
   下の孫娘が保育園の時は駒の裏側の果物の数から表の数字を当てる遊びをしていた。そのあと、同じ列と行には同じ数字がないように並べる(ラテン方陣)遊びを教えていた。
 小学低学年の孫には、足し算だけのプリント問題から始めたが、すぐに等式方陣パズルも遊べるようになった。
 遊び方は 駒の側面と駒の置き方を工夫してじっくり考えて遊べばいいのだが、数理パズルなので仮置きしないで根拠のない置き方をすると失敗する。例えば、前項の4×4マスの問題で、□+□=5では2+3と1+4の2通りの答があり、しかも3+2、4+1もあるので、2か3の駒の側面の23と1か4の駒の側面の14の数字群を選んで、2つの駒をマスの中間に立てて仮置きする。
 計算は2マスの式から始めて基本ルールを優先して、3マスの計算は後回しにするのがコツなのだ。
 〔ヒント〕L型3マスの□×□÷□=3を解く前に□+□=3を先に解くと、1と2だから基本ルールから行の残りのマスは3と4となり、3マスが4×3÷4=3が確定する(3×4÷4は4が同じ行に重なりルール違反)。

2、クロスワードパズルセットの開発
  クロスワードパズルは筆記式パズルの代表的なパズルで、カタカナ文字を使うのが基本となっている。
 これを筆記具を使わずにプレーするためには文字の数が多いのとマス目の数の種類が多様なのがネックとなっている。
 そこで主に文字駒を工夫して本考案に至った。
 駒の形状は直方体で、カタカナ文字を表示する上面の形状は長方形である。
 駒の4つの側面には上面の文字(例カ)と同じ行の他の4つの文字(例キ、ク、ケ、コ)を1字ずつ配する。上面の文字5がキの場合は各側面がク、ケ、コ、カとなり、5つの駒で同じ文字が5つの面に配される。
 また、清音文字を有する行の文字(例カ)の駒の下面には同じ母音を持つ濁音文字(例ガ)を配し、4つの側面には同じ行の他の4つの文字(例ギ、グ、ゲ、ゴ)を静音文字と上下に区分して併記すれば駒の数を減らすことができる。
 なお、濁音文字を有しない行の各文字の下面には黒色またはクロスマーク(×印)と上面の文字を小さく配して、上面と明確に区別すれば不要の升目や塗りつぶしの升目(以下、黒マスと称す)に下面を上に向けて埋めるのに使用できるし、上面の文字が類推できるので、解答として必要な場合は他の駒と交換することができる。
 ア、イ、ウ、エ、オの文字は使用頻度が高いので、数が許す限りできるだけ多くの組の駒を揃え、下面は黒マスや不要升目を埋めるのに使用してよい。
 なお、ヤ行を[ヤ、ユ、ヨ]、ワ行を[ワ、-(長音)、ン]の各3駒とし、パ行の5駒を加えると合計で駒の数は51個となる。
 従って、並べ台の升目の数に1列分の予備の駒を加えると7×7の升目のクロスワードパズルで56個の駒が使えるため、ア行の駒を増やすことができ、プレーすることが可能となる。
 8×8以上の升目のパズルの場合は駒の数が増加するので、母音字駒を優先しながら文字駒を増やせば問題なくプレーできる。

(箱の表紙)

 

(クロスワードパズルセット)

3、ナンプレ(数独)と共用の9×9マスパズルセットの開発
 1)、主にナンプレ(数独)用パズルセット
  9×9マスが主流のナンプレ(数独)問題は計算問題ではないので、1マスに1つの数字を仮置きすることがあるので、側面の2桁の数字は反対向きの縦書きにして配置した。
 縦に立てると上側の数字だけを使える。表面の数字と裏面の数字を色違いまたはマークなどで識別して問題用と回答用に使い分ける。側面の3桁の数字群も縦置きにして一番上の数字だけを使ってもよい。

(ナンプレ(数独)プレー中)

  2)、9×9マスアリす等式ナンプレ、同アリス一休算用パズルセット
   ナンプレ(数独)とともに6×6マスから9×9マスまでの等式方陣や等式ナンプレ問題に対応したパズルセットも開発した。
 これは新考案のアリす一休算(ARITH Crossmath Sudoku)にも対応している。
 一休算とは9マスの太線の枠内にAからIまでのマスを1つずつ設けて、1から9までの重複しない数字を回答する新考案のパズルである。
 ある程度の数字が判明すると残りの数字が類推できるため、計算問題をさらに少なくできるのが特徴である。
 裏面の数字は次章で紹介するサイコロトランプ(正多角形トランプ)の開発時に考案したスーツ(マーク)とランク(数字)を一体化したデザインで、マスの数によって使う駒を識別できるようにした。印字はレーザー加工だが、スーツ部を彩色してもよい。

(数字駒とアリス一休算問題)

4、自力で実用新案出願から日本特許取得
 1)、特許出願の方法
  筆者は自動車用ゴム部品メーカーで20年以上ゴム材料の研究をしていたので、その間に9件の特許と1件の実用新案を取得した。
  出願手続きは専属の特許事務所に依頼するが、明細書は専門的なのですべて自分で作成し確実に特許を取得できた経験がある。
  そこで、これから開発する製品はできるだけ特許出願して、審査請求は3年間の猶予期間中に判断することにした。
 まず、出願前に特許庁の特許情報プラットフォーム(J-PlatPad)で「ボードゲーム」や「五目並べ」など考えられる関連用語で過去に同じような特許、実用新案、意匠登録があったかどうかを検索する。
  なかった場合は、類似の様式の特許で今回の発明の明細書などを作成するのに参考にしたい数件をコピーしておく。
 出願を特許事務所や弁理士に依頼すれば特許性の判断や出願手続きも依頼できるが、10万円以上?の費用が必要になる。
 筆者の場合は一人だけの個人企業なので、各県にある知財総合支援窓口を利用している。
   窓口には企業OB のアドバイザーがおられるし、オンライン出願の設備も無料で利用できる。出願時には各書類の原稿を持参して、明細書チェックソフトやアドバイザーに修正してもらって出願する。
 費用は特許出願料の14,000円と郵便局からの振込手数料だけである。もし商品化が有望であれば、審査料と特許料の10年分までは個人企業なので1/3になる。
  2)、実用新案の出願
   2015年9月に特許か実用新案かで迷ったが、特許性の自信がなく、審査が不要な実用新案で出願して、先願権を確保することにした。
   しかし、3年後に特許に変更したので初めから特許にしておけば実案出願料と3年間の登録料が無駄にならずに済んだことになる。
  3)、PCT国際特許出願
   当時から中小企業庁のアドバイザーとして、ゴム技術や工場管理、海外進出などのコンサルをしていたので、レパートリーを広げるためもあってPCT国際特許を自力で出願してみることにした。
 小規模企業等の競争力強化と国際出願促進のため、審査請求料や特許料とともに国際出願の予備調査手数料が1/3に軽減され、国際出願手数料に2/3の交付金が出ることも助けられた。
 国際出願も支援窓口から日本語でオンライン出願できるので、実用新案からカタカナ文字のクロスワードの請求項を除外して、日本以外を対象に2016年6月に出願した。支援アドバイザーからは個人で出願する前例は少なく、特許事務所に依頼すると数十万円は必要だといわれました。
 早速、2016年9月に予備審査結果が国際特許事務局(WIPO)から、アルファベットクロスワードを除く数字パズルは特許性ありとのお墨付きが届き、国際公開された。
  4)、日本特許取得
   国際特許で特許性が認定されたので、出願期限内の2018年3月に実用新案を特許出願に切り替えて、日本語クロスワードを含めて日本特許の審査請求を行った。
 1年後の2019年3月に特許許諾通知が来たので、特許料をとりあえず6年分納めて日本特許が確定した。 特許第6489395号
 これで計算パズルセット、日本語クロスワードセット、ナンプレ(数独)セット、等式パズル問題用紙が特許として認められた。

  5)、アメリカ特許に自力で挑戦
   計算方陣パズルやナンプレ(数独)の木製パズルセットがPCT国際特許出願の予備審査で「特許性有り」のお墨付をもらったので、日本特許出願(審査請求)と同じ2018年3月に米国国内特許を特許事務所を通さずに直接出願した。
 出願前に県のアドバイザーでアメリカの弁理士資格のある女史にアメリカ特許出願についてサンプルを持参して相談にいったが、こちらが説明する前に「そんなものはアメリカでは売れないよ。特許出願料が100万円以上かかるので止めておきなさい。」と追い帰されてしまった。
 ネットで調べると、特許事務所に翻訳を含めて依頼すると確かに100万円以上かかりそうだが、アメリカの場合、自国の代理人を通さずに発明者が直接出願でき、また、出願関連費用は微小企業の場合1/4(中小企業は1/2)に軽減される。
  すると、明細書などすべてを自分で翻訳して直接出願すれば1/10程度の費用で出願できることになる。
 実際には頼りにしていたGoogle翻訳が明細書の長い文章に対応できず、翻訳文を再度日本語に翻訳させてみると、全く違う意味になってしまった。
  単語だけは使えるのでほぼ全文を修正していったら、提出期限ぎりぎりになったが、費用は為替手数料、郵送料を含めて5万円だけで済んだ。
  100万円が1/20になったのだから達成感は相当なものだった。
 日本特許は1年後の2019年3月に確定し登録されたが、アメリカ特許は2年過ぎても受付の連絡さえなかった。
   特許事務所を通さないで直接個人での出願だったし、メールでの質問が認められなかったので半分あきらめていたところ、出願日から27か月後の2020年6月にやっとレターが届いた。
   内容は翻訳文など受け取ったが、アプリケーションシートの英訳文と、宣言書が欠落しているので提出するようにとのことだった。
 英訳文のシートを同封して宣言書は提出時のCDRに含まれている旨を返信したところ、3か月後にまたレターが来た。   
 内容は出願日から30か月の有効期限を過ぎるので、出願を継続するには、すでに行っていたシートの英訳料の70$と宣誓書サーチ料(70$)を含めて、合計780$の追加手数料(微小企業)が必要というものだった。
 期限オーバーは最初のレターが遅かったからではないかと頭にきたが、アメリカ特許出願の要領は充分把握できたし、さらに登録料を支払ってアメリカに進出する意欲も薄れていたので、(アドバイザー女史の忠告通りに)出願を取り消すことにした。
 2021年はじめにアメリカ財務省から前納していた審査料の150$小切手を受けとった。
    日本の銀行では現金化できないので、裏書きのできる小切手かキャッシュに変えてほしいと送り返したが、まだ返信はない。

(第2話に続く)

#創作大賞2022 


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