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家族について考えるーー角田光代著『八日目の蝉』を読んで

 角田光代著 中央公論新社 2011年出版

 入院したときに、病院の本棚にあったから読んだ。角田光代を一度ちゃんと読んでみたいと思って借りた。確かに読みやすいし、続きが気になるからどんどん読めた。けど、彼女の本をもっといろいろ読みたいとは思わなかった。

 生後何か月かの赤ちゃんを元彼の家から誘拐して、子どもが二歳くらいになるまで逃亡しながら子育てする「家族」というのをテーマにした小説。

 印象的だったのは、2歳まで他人に育てられた子供が大学生の時、不倫するんだが、その時その相手の男性を好きになったきっかけが、「自分が悪くなかったら、あやまらなくていいんだよ。」と言われたこと、とあって、なぜか自分のことのように思えた。自分の今まで生きていた時にふと他人からそういうこと言われると、そんな一言言われただけなのに、その人のこと好きになる、というのは大いにありえるな、と思った。

 しかし、私はこういう女性の気持ちは分からないな、こういうこと言う人とはまるっきり違う生き方してきたな、こんなセリフ言うなんて好きになれないな、と始終、出てくる登場人物とは気が合わなかった気がする。セリフ一言一言でも、こんなとき、こんな風に私は言わない、としばし思った。こういうこと言う女性には近づかないようにしてたしな、と。角田光代の小説に出てくる人物は、割と私が普段他人に対して言わないセリフの繰り返しの会話が多いとこの本を読んで気が付いた気がする。

 是枝さんの映画もそうだけど、「家族」っていうことをテーマにする作品いろいろあるけど、血のつながりがない人に育てられた子を特別な存在にして主人公にした物語がよく作られる傾向にあるんだな、と思った。「家族」といったら血が繋がっていることが当然で、そういう世界から逸脱した世界を書こうと思ったら、他人が他人の赤ちゃんを育てるという構図は当然のことのように思うが、そういう分かりやすい形がこの小説には見られる。およそ、今から十年以上も前に出版された本だから、こういう家族の書かれ方だったのかもしれない。

 理解できるっていう共感とかよりも、ただ単に、角田光代の小説のおもしろさのようなものも感じた。語りの面白さというか。でも、一方で、この本を読んだら、しばらく子どものこととか、女性が子供育てる話とか、しばらく読みたくない、と思った。この小説読みながら、すごく私自身が考えた。家族について。小説として面白い本だと思ったけど、それなりに社会的に訴えてるものもあると思った。


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