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ノラさんとの出会いーー坂口恭平著『土になる』を読んで

 坂口恭平著 文藝春秋 2021年出版

 坂口さんの文章をもっと読んでみたくなって、この本を図書館で借りてみた。今まで、数冊最近出版された彼の本を読んできたら、結構実用書のような読みやすい文章だな、と思った。だけど、小説のような散文のような文章を読んでると、なんかどういうことをこの人は言葉にしようとしてるんだろう、と考えてしまったのだった。

 この本を読んでみたら、やはり、坂口さんってどういうことを文章にしようと思っているんだろう、とちょっと疑問に思った。非常に読みやすいんだけど、なんか、私が文章を書くときにモヤモヤしたり、言葉にできないことを言葉にしようとしている作業に似ているような気がした。この本では、畑のことが述べられていて、そこで出会うノラジョーンズという猫の話が多い。それと並行して躁うつ病の自分のことが書かれていて、畑を通して出会う人たちとのコミュニケーションが書かれている。また、いのっちの電話でどういうことを話しているのか、といったことも会話でちょっと出てくる。

 畑の描写に、「ここにないのは、言葉だけだ。言葉以外はすべてある。」p. 24 という表現に出会うのだが、なんかそれが彼のすべてを物語っているように感じた。私は、坂口恭平ってセンスの塊だと思っているのだが、いわゆる彼の音楽も、言葉以外の雰囲気がメッセージ性より勝っていて、でも、添えられている歌詞とかも、割と耳に入ってきて、でも曲の雰囲気がうまいとか下手とかを超えて、聴いている人の心に心地よく響いてくる。多分、音楽を作っている本人も心地いいんだろうと感じる。そこに彼の共感を超えたなにかがあるように私は感じる。

 この本の畑に対する愛情というか、向き合い方もなにか、人と人という関係では味わえない、それを通り越したものを感じる。それは、人と自然の同一化とかそういった話でもなく、猫との会話もなんか暖かさを感じる。とても暖かいんだけど、ちょっと離れている距離も感じて、それが躁うつ病の話と混ざっているような感じで全体的に本が書かれているような気がする。

 やはり、彼は病気と闘っているというか、病気と共につきあい続けて日常生活を送っている人だと思った。それを病気というか、なんというか分からないけど。もう一人の自分というのとも違う。こういう人が抱えた側面をなんというんだろうか、とふと疑問に思った。


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