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【読書感想】デジャヴな感じがした一冊ーー吉田篤弘著『あること、ないこと』を読んで

吉田篤弘 平凡社 2018年出版

 最近、吉田篤弘さんの小説を読んで、もうちょっと彼の書いたものをいろいろ読んでみようと思って、借りた二冊目。

 小説というか、エッセイというか、フィクションなのかノンフィクションなのかもわからない、謎の一冊だった。短編集なのか、一冊の物語になっているのか、ということもコメントできない。一冊の本をデザインして書かれた書籍だと思った。デザインと言うと本の装丁だったりするのだが、彼の場合、文字で書かれた文章もデザインされているというか。それはタイポグラフィがどうの、という話でもなく、物語というかエッセイがデザインされていると言えばいいのか。

 ほんとに文字を使って表現をする、「書く」ということはあらゆる可能性を含んでいるんだな、と思った。最近、当たり前のことだが、何もないところに自分で「書く」という行為は、とても創作的というか。なにか作品を作ることが芸術だと思っていたけど、文学などにしても、書くということは、とても創っていることなんだ、という気持ちがしている。改めて文学とかの創造性を考えてしまう。それはなにかを「表現する」という行為であるのでもあるが、この本は「書くこと」について、いろいろ考えさせられる一冊の本であるのは事実だ。

 前回読んだ彼の本『それからはスープのことばかり考えて暮らした』があまりにも気に入ったせいか、なぜか、同じ主人公が登場しているのではないか、という錯覚に陥った。なんていうか、吉田篤弘さんが書く登場人物の不思議さというか独特な個性というかそういうものに共通したものを感じた。何を書いても吉田篤弘さんの感じになるというような気がした。フィクションでもノンフィクションでもない話なんだが、彼が書く人は彼、著者そのものを表しているんじゃないかという気がした。

 男か女か性別もない宇宙人マユズミさんも、名前が気になってしょうがなかった登場人物だ。彼/彼女の名が出てくることによって、この話は繋がっているのかもしれない、と思うことができたが、この人謎すぎる。

 うむ、実に興味深い本だった。もうちょっと吉田篤弘さんの作品を読んでみたい。


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