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【読書感想】英語原書の短編集"Safe as Houses"Marie-Helene Bertino著を読んで

"Safe as Houses"Marie-Helene Bertino著 Univ of Iowa Press 2012年出版

 『楽しい夜』という岸本佐知子編訳の短編アンソロジーに載っていたマリー=ヘレン・ベルティーノの短編集で、『楽しい夜』にはボブ・デュランについての小説が翻訳されていた。とても読みやすい人だな、と思って、原書で読んでた。Amazonのキンドルで買った。

 岸本佐知子に翻訳されていた、なぜかボブ・デュランを感謝祭の時に実家に連れて帰る話、"North of"はもちろん、どの話も読みやすくて、理解しやすい英語だった。

 私が特に気に入ったのは、"The Idea of Marcel"と"This Is Your Will to Live"という話だ。"The Idea of Marcel"はある日、カップルが、自分の概念の男と女の分身がやってきて、バトルを繰り広げるお話。概念と訳していいのか分からないが、ideaアイデアだ。本当の自分自身がそのideaである自分の分身をやっつけようと、戦う。というか、自分とはちょっと見た目が違っていて、言うことも違う。なんてったってideaだから。でも確かに、その概念の女性がideaではない彼氏を誘っている、という話。idea, idealという言葉が訳しにくいだけ、英語で読むと面白い。もうひとつの"This Is Your Will to Live"という話は、訪問セールの男性が、女性にYour willといって、商品を売りつけようとする話。どちらの話も、簡単な英語なんだが、willとかどうやって訳したらいいんだろう、と考えてしまう。この短編のタイトルも「これがあなたの生きる意志です」と訳したいところだが、willという単語が意志という一側面だけでおさまらない英語の深みを感じる使い方にも遭遇する。

 岸本佐知子の素晴らしい翻訳の原書だけに、自分だったらどうやって翻訳するかな、と考えてしまった短編集だった。


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