見出し画像

なんでもない人間関係ーー中島たい子著『院内カフェ』を読んで

 中島たい子著 朝日文庫 2018年出版

 中島たい子の本にハマっていて、また借りてしまった。タイトルに惹かれた。

 病院内にあるカフェで働く女性と、彼女を取り巻くお客さんや患者さんであったり、いろんな人からの視線で書いたお話。中島たい子は、なんでもないようなことなんだが、誰でも抱えるような問題を、簡単な言葉にしてそこから生じる、葛藤する人間の心理などを書くのがうまいように思う。一見、とても簡単な描写なので、ふつーすぎて、おもしろくないというか、文学的な技がないというか、大作家ではないのね、というような気がしてしまうのだが、なんでもないようだがそこに潜む人間の感情とかを単純な言葉で書くのがうまいように思う。

 どんな方なのか、ウィキペディアで調べてみたら、私と同じ高校出身の脚本家ということが分かって、親近感がわいた。脚本家であり、作家であり、という人は、書くものにある種の共通点があるように感じられる。向田邦子と似たような文体というんだろうか、脚本家の人が書いたものは似たような読後感がある。

 不妊症、介護など女性が抱える問題や、免疫不全の難病を抱えた男性のことであったり、今の年頃の私には読み応えのあるテーマ満載。30代40代になってくると、身体のことが気になってくるのは当然で、健康番組を観るおばちゃんになっていく年頃というか、要するにそういうおばさんに足を突っ込みかけてる年頃なので、この小説は割と、はまった。中島たい子さんの小説は女性が抱える問題をさらっと書きあげているようにも思う。不妊症の話はある年代の女性にとっては深刻な問題だが、なかなか小説の主題にはならない。彼女の『漢方小説』という作品は私のお気に入りだが、その女性が抱える問題をぼちぼちのんびり日常生活送りながら、付き合っていこうかなーみたいな女性が描かれているところが私は好きだ。彼女の小説にはそういう空気が漂っている。

 しかし、この本のラストはちょっと派手すぎて好きではなかったかな。もっとなんでもない終わりが良かったと思った。

 もっといろんな人に読まれてもいいと思う。中島さんの作品。


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?