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【読書感想】子ども時代の再構築ー河合隼雄著『泣き虫ハァちゃん』を読んで

河合隼雄著 新潮社 2007年出版

 母が一番好きな本と、この本のことを言っていたので読んでみた。

 最近、母が身辺整理していて、実家の本がどんどん捨てられていくので、見かねて、今のうち、母が読んだ本で興味のある本は、とっておこうと思っている。

 自伝的な小説だけど、あとがきは河合さんの奥様が執筆していて、限りなく本人近いといっていた。

 ハアちゃんが小学四年生のころの小学校や兄弟や家の様子が描かれている。彼の家族の会話や、兄弟と川に水遊びしに行ったこととか、当時の思い出が優しい言葉で書かれている。小学四年生のころに、夜、変な気持ちになって、親の寝ているところへ行って父親の懐にまるくなって寝にいってたという話でこの本は終わるんだが、四年生のとき、確かにそういう不思議な変化って私もあったな、と思った。不安と孤独感。両親と一緒に寝るのをやめることに、孤独を感じるというのではないが、私は小三のころ、夜中に目が覚めて、恐怖に晒されて、母の寝床に転がり込んでた。この本を読みながらそんな幼い日々を思い出した。

 河合さんが亡くなった時、新聞を読んでそのことを知った母は涙を流した。母は河合さんの本をひっきりなしに読んでいて、心の支えにしていたらしい。それからしばらくたって、この本が出版され、母はこの本を読むとほんとにほっこりする、と言っていた。

 私が思ったのは、こういう子ども時代のことを思い出して書く小説というのは、自分が子どもの頃のことを大切に想っている人しか書けないということ。河合さんのこの本は、本当に自分の思い出を大切にしてて、そして子供というものがほんとに好きなんだな、というのが伝わってくる。子どもというのは不思議な生き物で、大人になると知らずに失ってしまうものを持っている。でも、大人になっても、ああ、自分が子どもの頃そうだったな、とかありありと自分の幼い姿を思い出すことができる。共感というのとも違っていて、なにかそういった作用が働く。共感というのは、自分とは別の生き物と共に感じることができる現象を言うんだと思うが、私が思う子どもの頃の思い出は共感とも違くて、自分が昔思ったことが復元されるというか再構築されるということである。だから、私が今でも絵本を読むのは、その作業を大事に思うからである。

 この本は、そういう体験をさせてくれる。


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