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【読書感想】村上春樹の好ましさー『女のいない男たち』を読んで

村上春樹著 文春文庫 2016年出版

 「ドライブ・マイ・カー」という映画を観たので、村上春樹の原作も気になり読んでみた。映画を観て、原作が気になって読むことはよくあるが、ただ、私、村上春樹のあんまり熱烈な読者ではないので、どういうストーリーを原作にこういう映画を作ったんだろう、という興味からだ。

 この本は短編集なんだけど、映画の素材になったのは「ドライブ・マイ・カー」という短編だけでなく、この本に収録されている「シェエラザード」という短編の要素も入っていることを発見した。あの映画でとても印象的だったのが、家福の妻が性行為をしている最中にしゃべる変な話だ。ヤツメウナギの話がとても記憶に残っていて、なんなんだ、この生物、と思ったのが、この「シェエラザード」という短編に出てきた。

 映画と比べると、原作のみさきはレイバンのサングラスかけて、ヘビースモーカーでとても大柄な人だということがわかったり、そういうのはやはり、俳優使って現実的に実写するのは違うのだろうと思った。でも、なんか、そういう細かな人物描写に村上春樹の小説の面白さを感じる。私は村上春樹のビッグファンではないが、あまりにも周りの人たちが読むもんで、多少読んどいたほうがいいかな、と思って、ちょくちょく読んでいた程度にしか彼の作品は読んでないが、村上春樹の小説に小さなユーモアを感じて、私はそこが好きだと思う。そのユーモアさって気が付かない人はスルーしちゃうようなとこで、どこかバカ真面目に誠実なとことか、ぷぷぷっと笑ってしまう小さな描写が彼の作品で好ましいと思う。この短編集でも、それは感じられてこのユーモアさはハマる、と思った。彼の作品の全体を述べると、相変わらずもやっとしてるし、メンヘラでおかしくなる、というのも相変わらずあるし、どの短編もさらっとセックスについて書いてあるし、村上春樹的要素がてんこ盛りなんだが、その小さいユーモアもここに数え上げておきたいと私は思う。また、村上春樹本人が主人公でノンフィクションなんじゃないか、と思えるような小説もなかなか良い。主人公の男性がバー経営者で、好きなレコードをかけるシーンや、へんなお客に対応するとこなど、彼の実際の経験から書かれているのだろうと思う。それも、どこか描写がひょうひょうとしてて、ちょっとおもしろい。と私は思ってしまう。

 村上春樹のユーモアってあんまり語られることがないけど、もしかしたら、普通笑うとこじゃないのかも、ってちょっと心配になる。いや、私は十分ユーモアだと感じるんだけどな。小説っぽいっというか、人間ってどこかそんなふうに、まじめに何の根拠もなく変なことするよな、と思ってしまう。そこが村上春樹を好ましく思う。


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