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【読書感想】若者には立ち入ることができない愛ーーミュリエル・バルベリ著『優雅なハリネズミ』を読んで

ミュリエル・バルベリ著 河村真紀子訳 早川書房 2008年出版

 日仏の翻訳のクラスに通っていた時、この本の原書がフランスでベストセラーになっていて、先生が教材として持ってきたのだが、当時の私にはフランス語が難しく感じた。で、いつの間にか日本語の翻訳が出ていたので、ずっと気になっていたから、ついに読んだ。すごく面白い本だった。

 ていうか、私、仏文の畑で生きていた人間なのに、フランスの本一冊も紹介してない、と思って、過去のメモを漁って、この小説の感想アップしました。

 マンションの管理をしている年配の女性が、そのマンションの住民といろいろやり取りする話なのだが、そこに日本人の男性が引っ越してきて、ちょっと恋をし、最後に管理人の女性が事故で死んでしまうというお話。日本人の登場で、一瞬、変な日本の姿が描かれるんじゃないか、と疑ったが、そうではなく、とてもよい話で、フランスのほんとに日本好きの方が書いた小説なんだな、と思った。作者はこの本出版当時は日本に住んでいたらしいが(現在はどうなんだろ)、そんなの読んでるときは、全然知らなかったが、なんか日本人の描写がとても良かった。人間関係の描写が込み入りすぎず、深入りせず、中年の男女のほほえましい心情の動きなど描かれていて、素敵な小説だと思った。

 図書館でバイトしてた時、年配の身なりを奇麗にした女性がこの本を借りているのに遭遇したことがある。なるほど、この本のイメージにぴったりな人が借りていったし、実際自分も読んでみて、また再び、あの女性を思い出してみると、なんとなくイメージが重なって、私もそんなふうに年をとっていきたいと思った。

 なんか、年配の男女の恋愛話、って良いと思った。お互い、長いこと人生歩んできて、その終盤に出会うから、若いころみたいに、私の知らない人生歩んできた相手に対して焦燥感とか感じなくて、当たり前に、人生いろいろありましたね、とお互い言っているような気がして、そういう中で、男女の恋愛に発展する、っていいな、と純粋にあこがれた。あこがれたというか、今の私にはまだ備わっていない、年を取るからこそ含蓄される人間の貫禄みたいなものが、長く生きることによって備わるんだな、と思った。

 「文法というのは単なる手段ではなくて、それ自体が目的だということが明らかです。つまり文法は言葉の持つ構造と美への入り口であって、社会でうまくやっていくために使うだけのモノではないのです。」p. 170 
この言葉にしびれた。


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