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【読書感想】最近読んだ本で一番面白かった小説ー『フライデー・ブラック』を読んで

ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー著 押野素子訳 ‎ 駒草出版  2020年出版

 文芸雑誌よんでたら、山田詠美が最近読んで面白かった本、と上げていた本。図書館でアルバイトしてた時に、一日に2冊も別々の人から返却されて、カッコイイ装丁の本で、最初にケンドリック・ラマーの引用があって、最後に藤井光が解説書いてる本だから、間違いないと思った。

 この本、ここ十年くらいずっと読書してきたけど、その中でも一番おもしろい小説、と思った。最高。黒人作家が書いた短編集。すごく笑ったし、読み終わるのがもったいなすぎて、途中で本を閉じては、この本ちょーおもしろいな、とつぶやく、ということを繰り返した。

 表題になってる「フライデー・ブラック」という短篇は、アパレル関係の服屋の販売員が主人公なのだが、すごく滑稽で笑えた。すごくデフォルメして書かれてるんだけど、それがとてもリアルに感じるというか。あとビデオゲームみたいなヴァーチャルなゲームの世界を書いた「ジマーランド」という短篇もすっごく面白かった。この作家さんはどちらかというと、すごく大胆な表現や言葉を使うと思うんだけど、それが行き過ぎてない、というか、妙にそれこそ現実感を持たせるというか、ぴったりくる。控えめな表現でかゆいとこに手が届いて共感を生むというよりも、大胆な表現に的確な描写が読んでいて気持ちよい。主人公が幽霊になるとことか一瞬、この話はちょっとSF入ってるんじゃ、と思うんだけど、SFと言うほどの話ではないとしても、新しい世界作ってるな、と思った。

 黒人の現代小説として、言葉、とくに会話の文章がすごくいきいきとしてて、翻訳である日本語の俗語の選び方もうまくて、すっごく現代という社会を生きてるな、と感じた。今の私の人生にぴったりだったから、余計おもしろくかんじたのかもとも思った。黒人が、何の理由もなく、黒人だから、というだけで、面接断られるとこなんか、ほんと、私も、面接落とされまくった経験があるから、黒人差別とひどく共感してしまった。日本国内で日本人として採用面接に落ちている私は、それなりに問題を抱えているのかもしれないし、そんなの黒人差別に取ってみたらどおってことないことなのかもしれないけど、そういう不条理な目にあって、結局他人を殺したい、とか人殺しに走るところなんて、私も、ほんと、下手したらそうなるな、って最近常日頃思ってるから、なんか、そういうのひどくシンパシー感じた。

 私が黒人文学を好むのはこういうマイノリティの文化にひどく、私もそうだな、と感じるところがあるからだと思う。私は黒人ではないが、そういう個人が持った歴史、社会での葛藤などが、私という一人として生きてきた日本人の女性にも伝わるのって、こういう文学読む良さだと思うんだけど、LGBTQとかマイノリティを迫害するような人たちって、こういう感覚、読書してて味わったことないのかな、と漠然と思う。

 なんか、この人が描く短編に出てくる人ってみんなすごくかっこよくて、現実を生きてる黒人であり、少女であり、文学として、すごくリアルでありつつめっちゃ現代的な文学の世界を築いてる、と思った。


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