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【読書感想】現代に必要な本ーーステファニー・スタール著『読書する女たち』を読んで

ステファニー・スタール著 伊達尚美訳 イースト・プレス 2020年出版

 「フェミニズム小説」という言葉を調査していた時に、Amazonで検索したら、この本が引っかかった。おもしろそうなので、図書館で取り寄せて読んでみた。

 アメリカのライターをしている女性が大学の女性学の授業を聴講しながら、フェミニズムにまつわるあらゆる本を読書していき、授業で討論したことや、彼女が日常生活で考えたことなどが綴られたエッセイ。

 副題が「フェミニズムの名著は私の人生をどう変えたか」とあるように、バージニア・ウルフ、ボーヴォワール、ベティ・フリーダンなどの名前が挙げられる。フランスのフェミニズムにも言及あって、シクスーやイリガライの名前も書かれていた。

 大分昔になるが、ある大学でアメリカの哲学をやっている女性の教授がデリダとボーヴォワールについての講演をやるというので、聞きに行ったことがある。その時に、アメリカではボーヴォワールの著書『第二の性』は何十年の前に翻訳されたきりで、それ以降新訳がでていない、という話を聞いた。アメリカではボーヴォワールって無視されているんだろか、と思って、そのころの講演を聴講したことをきっかけに、アメリカに行って、哲学の勉強をしてみたい、と思うようになった。願いはかなわなかったが、この本に、アメリカでのボーヴォワールの捉えられ方が書かれていて、なるほど、こんな風に思われているのかと思った。大学で女性学を講義している女性がすでに彼女を否定的に捉えているのであった。

 ベティ・フリーダンについても、アメリカでバイブルのように扱われているが、実際、どんなふうに現地のアメリカ人が思っているのか、この本で執筆されていて、へえーと思った。やはり、ボーヴォワールの方が、学者肌というか、フリーダンが、社会的な調査を行って本を仕立てたのとは違い、ちょっと敬遠されているようだった。

 こういったアメリカのフェミニズムに関して、生の声が書かれいる本はなかなかないので、この本は読みごたえがあった。

 でも、多分、そんなフェミニストたちの名前を知らなくても、ばりばり働いていた女性が、結婚して、子どもができて、子育てに追われ、仕事の邪魔され、離婚の危機に見舞われて、という彼女自身の日常の話が書かれているのに並行して、フェミニズムの講義が書かれていて、彼女は読書を通して、自分のことを考える。その学問を日常に織り込んだ、ある一人の女性の生き方を描いたとても読んでよかったと思った本だ。

 ひとつ言いたいのは、本の装丁、表紙が良くないと思う。女性がソファの上で本を読んでる傍らに、赤ちゃんが寝ている、温かいイメージの絵が描かれているんだが、この本の内容と合わない。いや、確かにこういうシチュエーションだと思うけど、なんていうかこんな柔らかい絵のイメージはない。なんで、この表紙にしたんだろう。なぞだ。

 あとがきに、控えめにも著者が「この本に書いてかることは、一個人の意見に留まる」と書かれていたけど、こういう本こそが、大きな力を生むんだと思った。


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