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【読書感想】大好きな作家の短編集に浸る――『カート・ヴォネガット全短篇2』を読んで

カート・ヴォネガット 大森望監修 早川書房 2018年出版

 最寄りの図書館の新刊のコーナーにあったから借りて読んでみた。

 この短編集全4巻らしい。ヴォネガットって結構書いてるんだな。この2巻目は、「バーンハウス効果に関する報告書」という副題がついていてこの短編が収録されている。「女」、「科学」、「ロマンス」と三セクションに別れているが、このセクション別があんまりおもしろくなかった。ちょっと盛り下がった。セクションごとの冒頭と最後にアメリカの批評家?研究者?の短文がついていて、その文章がとても英語で書かれた批評っぽくて、直訳なんじゃ、というか、アメリカの批評ってこうかかれるよなーと読んでいて思った。英語の批評のスタイルがもろにでた文章だった。最後の解説は作家の小川哲さんで、新年早々、新聞で彼のことを知ったからとても身近に感じた。

 小川哲さんは、自分とヴォネガットの出会いについて述べていたけど、私の場合は父が持っていた本でも何でもなく、アメリカの現代文学ってなんだろう、って思っていたら、たどり着いた作家だ。小川哲さんのお父さんがヴォネガットの小説に出てきそうな、変な父親で、というのも笑ったが、私は自分の父親ほど、ヴォネガットの小説の登場人物とは程遠い人はいないな、と思った。なんていうの、私の父はヴォネガットとは全然違う。理屈っぽく、難しいことが好きなわたしの父は、ヴォネガットが描く、なんか変だけど、変なことに固執している変人というわけでもないし。だから解説書いてる小川哲さんの父親のことを思うと、あまりにも違う自分の父親像に笑えた。でもヴォネガットの手にかかると私の父親も面白い人として描写されるのかなあ、と思うと思わず遠い目になる。

 そうはいってもヴォネガットの小説はなんか面白いユーモア交えた本が読みたいなと思ったときに、手にする本で、ジョン・アーヴィングの本も同様で、私にとって、そういうれっきとした気晴らしの本なのであった。私の高校の頃のフランス語の先生もそう言っていて、なんかこういう感じの小説ってアメリカ現代文学っぽいなと思っていた自分がいる。でも、改まってこういった全四巻の短編集に収められていると、オチがあるようなないような、愛だ、と最後にいっているような、でも、戦争反対ともいっているような、そんな作品集をとくとくと読んでると、ヴォネガットってやはり読者を裏切らない変な人だったんだな、と確信した自分がいた。

 アメリカの批評家がヴォネガットの小説を「マウストラップ小説」と呼ぶ、というのを読んで面白いな、と思った。いわく「読者を物語に複雑な(しかし複雑すぎない)からくりの中でひっぱりまわし、結末では、檻がばたんと閉じて、読者を捕まえる」p. 382 物語、のことをいうそうだ。そういった要素は彼の作品にあるにはある。

 彼の短編に挟まれるアメリカ人の解説の翻訳にフーンと思うことしばしばだったが、ヴォネガットを読む日本人の書評家とかの文章も読んでみたいな、と思った。

 よし、この短編集全4巻を制覇しようと思う。


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