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フェミニズム小説とは何かを考える2ー韓国文学を読んで

 前回、松田青子の小説の感想文書いてたら、「フェミニズム小説」という言葉が浮かんで、そこから、しばらく「フェミニズム小説」ってなんだろ、と考えていたが、もしかして韓国文学から言われるようになったのでは、と思いついた。『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説が出版されたあたりから、この言葉は出てきたのではないか、と思った。

 検索かけてみたら、白水社から出版されている『ヒョンナムオッパヘ』という本が、「韓国フェミニズム小説集」といって2019年に出版されていた。この本はタサンチュェッパンより2017年に出版された本の翻訳らしい。フェミズムというテーマで組まれたアンソロジーはこれが初めてだそう。現代の女性作家がフェミニズム的な小説をと依頼されて全部で7人の作家が執筆た短編小説集だ。『82年生まれ、キム・ジヨン』の作者チョ・ナムジュも表題にもなっている『ヒョンナムオッパヘ』を執筆してて冒頭に収められている。『ヒョンナムオッパヘ』は、女性が彼宛てに別れの手紙をしたためた形になっている作品だ。あのときこんなこといったでしょ、あなたは支配的なんだね、という形で彼とすごした日々のあれこれを述べる。私の個人的な感想としては『82年生まれ~』より、よりフェミニズム的な色が濃い作品だ。他にも、全体的に女性を主役にしたサスペンス調のものもあり、SFありなど、種類に富んでいる。更年期で中学の息子がいる女性の話などもあり、女性に焦点が当たっている作品が多い。

 最後の訳者解説に斎藤真理子さんは「「フェミニズムを広めるための小説?」「プロパガンダ小説?」と思うかもしれませんが、そうではありません。原書では「フェミニズム小説」の定義は特に明らかにされていませんが、実際の内容はかなりバラエティに富んでおり、現代韓国を生きる女性の生活と意見を踏まえて、作家たちがそれぞれに自分の考えるフェミニズム小説を模索した果実が収められているといえましょう」と書いていたが、フェミニズム小説というものが定義づけられていないとはいえ、「フェミニズムってなんだろ」とここから考えるのに良い短編集だと思う。

 もう一冊河出書房新社から、『あなたのことが知りたくて 小説集 韓国・フェミニズム・日本』という本も出版されている。こちらは、韓国の作家と日本の作家両方の作品が取り上げられている。たぶん、私が松田青子の小説読んでて、「フェミニズム小説」という言葉が出てきたのは、この本に彼女の作品が収録されていたからかもしれない。この本の日本人作家は、どちらかというと在日の問題を扱っている作品がいくつか載っていて、そういうテーマの作品を私は読んだことがなかったから、とても興味深く読んだ。星野智幸は男性作家で「モミチョアヨ」という韓国でホームレスとサッカーをする話を書いていたが、これも、日韓の交流をテーマにしてて、こういう小説に珍しさを感じた。

 結局、フェミニズム小説って言葉は韓国文学と共に広がったといってよいと思う。フェミニズム小説って言葉だけ聞くと、今更言われても、私の持ってる小説ほとんどそうじゃん、と言えそうだな、と思ったけど、ここ数年で言われるようになったのは韓国文学から。この言葉があることによって、なんかますます「フェミニズム」が疎遠になっていく人もいるんじゃないか、とちょっと思ったが、いろんな角度からフェミニズムを考えるにはどちらもよいアンソロジーだと思う。河出書房から出版されてた本のように、フェミニズムと同時に在日文学も増えるといいな、と思った。


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