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観客にどう観てもらいたいのかーー『ポスト人新世の芸術』を読んで

 山本浩貴著 美術出版 2022年出版

 前著『現代美術史』の本を読んで著者のことを知り、この本が出版されていたことを知って読んでみた。

 人新世ってそんなに世界で注目されているのか。私はと言えば、「人新世」といったらニコラ・ブリオーがすぐに思い浮かぶので、なんだか、この言葉で芸術を説明するのは嫌になっている。しかし、著者が、「脱中心化」「美術史の脱人間中心化」ということをテーマにこの人新世という言葉をとりあげて、一冊のこの本を書き上げたことに、とても意義を感じた。

 ハイ・アートとそれに対比されたロー・アート的な考え方はもう現代では区別できないのかもしれないと思った。「脱中心化」というのは、人間だけの世界の話でもなくなってきているのが、最近の芸術だ。自然の風景とか動物が絵の主題になり描かれてきたのは長い美術史の中では当然のことだし、人間対自然が主題となっていた時代があったように、今は、脱人間中心化された「人間と自然の美術史」の構築に向かっているようだ。

 例えば、AKI INOMATAさんの作品は、動物との共作というか、作家本人が、生き物の受け身になっているような作品を発表している。ビーバーが木の切れ端をかじって変形したものを彫刻として展示したり、 ≪インコを連れてフランス語を習いにいく≫2010という作品もあるらしい。こういう作品は、自分の手を使って製作されていないので、作家がどう自分の作品を考えているのかが重要なように思う。作品が作家自身のコンセプトというのか、展示してある物体そのものが動物との共同制作という作品なのか、どっちなの、と一瞬思う。そこまで作家は考えてないんだろな、と実際、彼女のビーバーの作品を森美術館の展示見ててちょっと思ったけど、その作家の意図を超えた作品みたいなものって、観客にどう見せるか、をどこまで考えているんだろな、と私はいつも思う。観客にどう見てもらいたいのか、ということを作家はあんまり考えるべきではないと思うが、観客はどう見るんだろう、は想像力をある程度使ってもらいたいとは思う。

 また、山本鼎の農民芸術運動の話が書かれていたのもおもしろかった。私は彼のこの運動を学芸員の資格を取得するときに、大学の教授から教わった。そこで印象深い言葉をメモっておいた。「自分が直接感じたものが尊い/そこから種々の仕事が生まれてくるものでなければならない」とても、しびれる。この運動のこと、他で話しているのを聞いたことがなかったので、この本に書いてあって、ちょっと感動した。

 この本は、久しぶりにアート関係で現代のことを良くまとめて書かれているように思った。最近の若者で、芸術関係に興味がある人は読んでおくべし。


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