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Tokyo Happy Coats『奥の細道』 【A-1】THCと遭遇す。


(本稿はアメリカのTokyo Happy Coats研究家Roy Baugher氏の許可を得て日本版サテライトコンテンツとして作成しています。)

■落ち穂拾いの場としての『The Ed Sullivan Show』チャンネル。

1960年代から70年代にかけて青春を送ったPopsファンには特別な響きがある『The Ed Sullivan Show』という言葉。

1964年2月にビートルズが出演したシーンは1970年代に入っても日本では観ることが叶わなかった。が、現在ではインターネットの普及と『youtube』の登場で手軽に閲覧が可能になった。洋楽のテレビ番組が国内ではわずかしか放送されなかった当時からすると、隔世の感がある。

さて。youtubeの 『The Ed Sullivan Show』チャンネルは、ビートルズやストーンズ、はたまたプレスリーやジェームズ・ブラウンなどのビッグネームの姿が拝めるのはうれしいところ。

でももうひとつ、広く一般に名が知られていないアーティストが出演していた動画に巡り会えるのもまた一興だ。

例えば、これ。

1940年代から1960年まで活動していた、Steve Gibson率いるThe Red Caps。ジャンルとしては1930年代後半から1940年代あたりが全盛だったJive系ミュージシャンの映像が残っていただけでも感謝感激。

◇  ◇  ◇

私がとても驚いたのが、このRosita Serranoの出演映像。

Rosita Serranoはチリ出身。1936年、オペラ歌手だった母親とともに当時のナチスドイツ”第三帝国”に移住した。チリ民謡を歌ってドイツ国内、中でも国防軍(Wehrmacht)でアイドル的人気を誇った。しかし、WW2敗北後は、ナチ協力者として祖国でも敬遠されることになる。

Serranoにとってこの『The Ed Sullivan Show』への出演は起死回生を賭けたチャンスだったが、まったく評判を呼ばなかったという。その後チリに帰ったが、不遇な晩年を送った。そんなSerranoの映像が保存されていた上に、アップされたのも知って驚いた。これはうれしい邂逅だった。

◇  ◇  ◇

『The Ed Sullivan Show』には日本をはじめアジアの出演者も散見される。

このThe Fujiwara Operaについては、私の勉強不足もあって詳細が分からない。藤原歌劇団の渡米公演が番組収録の同時期に行われているので、その際のものかも知れない。ただし、歌劇団公式サイトには番組出演についての記述が私が探した限りでは見つからない。

内容については、個人的には悪い冗談にしか思えないところ。ケバケバしいオペラは好みではない。

■Tokyo Happy Coatsとは対照的なKim Sisters。

Tokyo Happy Coats(以下THCと略)よりも前に韓国から渡米していたKim Sisters(以下KSと略)の動画は以前から観ていて、とても関心を持った。

エンタテイナーとしても藝達者だ。彼女たちのことを調べると、すぐにバックグラウンドが解った。

KSは、日帝強占期と言われる日本統治下の朝鮮で歌手として活躍した李蘭栄(イ·ナンヨン)の娘たち(1人は従姉妹)である。李蘭栄は、1935年に「木浦の涙」を発表した戦前期を代表する歌手。同曲は現在でも歌い継がれているスタンダードナンバーだ。
(ちなみに朴燦鎬『韓国歌謡史I/1895-1945』は資料として必読である)

出演のタイミング的にも、彼女たちが若い頃に朝鮮戦争後の米軍キャンプ慰問で芸を鍛えたのだろうと察しはつく。調べると、実際そうだった。

KSの『The Ed Sullivan Show』出演動画は1960年から66年ぐらいまでの間に相当数あるようで、母の李蘭栄と共演したものも残っている。

また近年撮影された動画では、KSのメンバーのひとりが家族とともに木浦にある母の歌碑に詣でる姿を観ることもできる。ま、それくらい彼女たちの情報は多いのだ。

■Kim Sistersとは対照的なTokyo Happy Coats。

さて本題、THCである。

まず彼女たちの演奏の確かさ、アクションや、よく構成されたステージングが目を惹いた。

いや、それよりもなによりも、『The Ed Sullivan Show』に出演できた日本の歌手やミュージシャンといえばせいぜいナンシー梅木か坂本九(Sukiyaki)くらいかと思っていたら、まったく未知のグループが存在していたことが新鮮だった。

THCという名前自体も、それまでまったく聞いたことがない。

彼女たちがどういう人たちで、どういう経緯で太平洋を渡り、どんな流れで『The Ed Sullivan Show』に出演することになったのか、やたら探ってみたい欲望にかられた。探究心という野次馬根性に火が付いた。

ところが、ネットで関連する日本語サイトをTHCで検索したら、99%なんの情報も見当たらない。英語の情報も出てくるが、ほとんどが渡米後の内容なのである。詳しいプロフィールや日本に居た頃のことが皆目見当が付かないまま。

”正体不明”という点で、KSと極めて対照的な存在がTHCなのだ。

◇  ◇  ◇

さて、少しだけPopの歴史から露出した法被(Happy Coat)の裾を掴んで,グッと全体像を引っ張り出せるかどうか。とにかく探索を始めてみたんである。

(【A-2】へ続く)

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