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『すずめの戸締まり』感想 物語構造と神話について

【注】ネタバレしかないです。
書いた人は言の葉の庭がとても好きです。

■物語の構成について

段々旅をしていくうちに、11年前、地震、津波(の心配はありません)、神話、など物語のピースが揃ってくることによって、ああ、この旅の終わりはきっと三陸だ、すずめちゃんとお母さんが暮らしてたのもそこで、すずめちゃんがお母さんを失ったのは311なんだ、と分かってくる構成がとてもよかったです。段々と視聴者に身構えさせて、緊張感を引き上げていくつくりが上手い。


■登場人物の心の動きについて

私はいなくなってもいい(うろ覚え)みたいなことを言うすずめちゃん。でも、最後に「死ぬのは怖い」って言えたすずめちゃんはやっぱり主人公だよ……とエールを送りました。


全然自分を大事にしなくて、本当はやりたいことがあるのに、役目に自分を捧げざるをえなくなって、せめて最後にすずめちゃんと会えたからそれで十分だ……って思うそうたさん。きっとひと昔前の作品だったら、使命に身を捧げる人みたいな描かれ方をしてたかもしれない。けどそうたさんには、ちゃんと自分のやりたいことがある。そこがとても令和っぽく、新海誠ヒロインの新たな姿を見たと思いました。

そうたさんはすずめちゃんに生きる力前に進む力(靴)を与えて石になっていったから、きっと構造としてはそうたさんが光の方。すずめちゃんが闇。

でも一番泣いたのは、おばさんがすずめちゃんに本音をぶちまけるところです。年をとってきた証拠ですね。

■モデルになった土地について

たぶんすずめちゃんの住んでる門波町のモデルは宮崎県の油津、南郷、門川あたりの合体だと思います。

とてもよく見慣れた御茶ノ水。東京駅で中央線に乗り換えるときにてきぱき指示をするそうたさんに何故かめちゃくちゃ萌えたのだが何故かわかりませんでした。東京のミミズを封印するときに、大勢の犠牲かそうたさんの犠牲かを迫られたところで、天気の子ォオオ!となりました。もしかして過去作オマージュ多いですか?


あと、たぶん新宿御苑も映ってて嬉しかったです。言の葉の庭が好きなので……。東京で靴を失って一度歩けなくなったすずめちゃんが、東京でそうたさんの靴を借りてまた歩き出すの、言の葉の庭要素じゃないですか??(過剰反応)


■主題と、人物の心のリンクについて

私も、辺鄙な場所を旅してると、廃墟や忘れられた土地に出会うことが結構あります。そういう場所って、なんかこのまま放っておいちゃいけないんじゃないか、この土地はずっとこのまま見過ごされていくのか、という哀しさを感じます。でも私にはそんな力はないので置いていくしかないし、変な神様や力場に引っ張られたくはないので(霊感は全くないけど予防として)忘れるのが最適なんですよね。そういう場所を、この作品は諦めなかったんだな……と思いました。今まで素通りしてきた廃墟に対するネガティブな気持ちが、少しポジティブになった気がします。


忘れ去られた場所と、置いてきた心のリンクが美しかったです。これは確かに、日本を縦断することに意味がある物語です。自分と同じように置き去りにされた土地・心にちゃんと整理をつけてあげることで、自分が取り戻さなきゃいけない心もわかっていくすずめちゃん。この流れがきれいに頭に入ってきました。


すずめちゃんは、小さいときに、三陸の常世に自分を半分置いてきちゃったんだと思います。心を出しっぱなしにしてしまってきた、というか(記憶喪失ではなく)。足が一本取れた椅子、というのもそういう意味なのかな、と……。だから扉にも触れるし、ダイジン(神様)に好かれちゃったのでしょう。ダイジンも、かなり純粋なだけの幼い神様のような気がします。物語の始まりのダイジンが抜けちゃった事件は、割と不幸な事故でしかないと、見終わった今は思います。


旅の途中途中で誰かと別れるとき、必ずハグシーンを入れてくるのが、印象的でよかったです。きっと全部がすずめちゃんの故郷になったし、いってきますとおかえりなさいが繰り返されて、それがすずめちゃんの心の戸締まりになった。傷を受けた心を開いたまま置き去りにしないで、ちゃんと鍵をかけて大事にしまう、この工程がすずめちゃんはずっとできてなかったんだと思います。だからこの旅は、いってきますとおかえりなさいを繰り返して学んで、心の戸締まりのやり方を取り戻して、きちんと過去の扉を閉めて未来に進むことができるようになるためのものだったんだと、思います。私も、心の戸締まりがちゃんとできてないことがあるかもしれない。日本全体も、まだ311の傷を戸締まりできてないのかもしれない。


■日本神話について

椅子の足が三本はストレートに八咫烏かな、と思いました。以下、ウィキペディア『八咫烏』より引用。『神武東征の際、高皇産霊尊(タカミムスビ)によって神武天皇のもとに遣わされ、熊野国から大和国への道案内をしたとされる。一般的に三本足の姿で知られ、…』。神武天皇は、宮崎神宮に祀られているほぼ神様みたいな初代天皇ですね。つまりこの物語は、神武東征みたいなものなのでしょうか。神武天皇がすずめちゃんで、八咫烏がそうたさん。出発地が日向で、八咫烏が案内してくれるのは首都(昔は大和国、現代は東京)まで。


そこまで深読みしてもいいし、あるいは単純に、神話的な内容なので、はじまりが宮崎県(神様が降りた地で有名な高千穂がある)で終わりが岩手県(常世の入口で有名な遠野、蓮台野がある)なんだろうな、すずめちゃんも岩戸だしウズメっぽいし、と簡単に考えてもよいと思います。


■最後に

映像の良さ、いつものことながらめっっっっちゃ素晴らしかったです。これこれ、これが食べたかったんだよ大将、と寿司屋でニカニカする人みたいになりました。ミミズが弾けた瞬間にその土地に通り雨が落ちるシーンが特に好きで、大神の大神降ろしを思い出しました。映像に対する感想はまだうまく言葉にできないので、もうちょっと噛もうと思います。
宣伝で『新海誠最高傑作!!』などと謳われているのを見て、「ひどい広報もいるもんだぜ……人には人それぞれの傑作があるだろうによ……」と思いながら見に行ったら私的には傑作だったのでビビりました。言の葉の庭に並んで、新海誠作品でトップクラスに好きかもしれない。ありがとう。明日を生きる力をもらえました。

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