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三好達治 「いにしへの日は」より

『いにしへの日は』 三好達治

いにしへの日はなつかしや
すがの根のながき春日を
野にいでてげんげつませし
ははそはの母もその子も
そこばくの夢をゆめみし


ひとの世の暮るるにはやく
もろともにけふの日はかく
つつましく膝をならべて
あともなき夢のうつつを
うつうつとかたるにあかぬ
春の日をひと日旅ゆき
ゆくりなき汽車のまどべゆ
そこここにもゆるげんげ田
くれなゐのいろをあはれと
眼にむかへことにはいへど
もろともにいざおりたちて
その花をつままくときは
とことはにすぎさりにけり

ははそはのははもそのこも
はるののにあそぶあそびを
ふたたびはせず

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                                                                           F50キャンバス oilpaint


『いにしへの日は』より 三好達治  「花筐(はながたみ)」収録 (昭和19年刊行)

春の あふれる光に酔いながら、花をつむ ”ははそはの母”とその子 を詠む詩です
 (「ははそは」は、音のひびきが美しければそれでよく、
 あまり意味を考えてはいけない ことで有名な、あの「枕詞」)

むせかえる官能と多幸感。
色はピンク。
この詩を読んでいると 桃源郷とは幼児期に 
母親とすごした春の一日のことだとわかります

今はその母と膝をならべ汽車の窓から景色をたのしんでいます。
達治が「花筐」をかいていたのは41才の時。
若い頃から想いつづけていた女性を迎えられるチャンスがフイにおとずれ 
10年間つれそった前妻との協議離婚を断行しました

無理をおして手にいれた蜜月期間中にこの詩集は刊行されています。

しかし、わずか数ヶ月後、女性の遁走により別離。
心身に傷を負わせあう生活でした。

色ボケ、はひどいですね ひどいです。
このうつくしい詩にわざわざ添えずともよい案内かとも思いましたが 
片方では色に狂う詩人が 
もう片方で 昇華させた詩をかいてもいます

達治の 魂の奥底ですくわれたような古語のセンスにはしびれます


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