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「自分の意思ないよね。」

西加奈子著『i(ポプラ文庫)』(ポプラ社 2019年)を読みました。

主人公のアイはシリアで生まれ、アメリカ人と日本人の夫婦に養子として迎えられました。
両親が裕福であるからこそ、自分の代わりに養子として選ばれるべきだった子の自由を奪ってしまったのではないかと悩み、世界の不均等に思いを巡らせます。

アイは選択することが苦手になり、誰かに決めてもらう人生を生きることを望みます。


私は今まで、周りに流されて生きてきました。進学した大学は自分で選択しましたが、進路以外は「周りの人が良ければそれでいい」という考えでした。

大学1年生の頃は先輩方に優しくされ、運営や雑用など一切手伝うことなく、気楽にサークルに参加する日々でした。
冬になると、サークルを辞める同級生が多くなりました。1年間呑気にサークルを続けてきた私たちも、4月からは先輩と共に本格的に運営に関わり、お客様扱いではなくなるためです。

みんなが次々と辞めていくのは悲しかったのですが、特に仲の良かった子が続ける限り、私は辞めるつもりはありませんでした。

「群青って、自分の意思ないよね。」
続ける・辞めるの話をしていた頃、ある同級生に言われた言葉です。

直接嫌なことを言われることに耐性が全くなかったことに加え、気の弱い私には衝撃が強すぎる出来事で、その瞬間呆然としました。

当時は本当にショックを受け、なんであの子は事もなげに人を傷つけることを言うのだろうと悩み、頭の真ん中に「自分の意思がない」という言葉がぐるぐると居座る時期が続きました。

「そんなことない」と否定できるのは意思のある人間です。呆然としながらも愛想笑いで返すことしかできなかった私は、紛れもなく意思のない人間でした。

少し苦手だなと思っていた同級生は、苦手な同級生になりました。


留学していた頃、先生から「AとBどちらの絵が好き?」と質問されたことがあります。

私はAと答えましたが、理由は答えられませんでした。選んだのは「何となく」で、答えたのは「訊かれたから」。

他の生徒は、自分で考えた理由と共に明確に回答していました。

私は思考停止人間なんだな、と思い知らされました。


就職活動には苦労しました。

就活は自分を知り、見つめ直すことから始まります。しかし、自分を知り尽くしても、答えられない問いがありました。

「自ら進んで考え、周りを巻き込み行動したことは何ですか?」。

社会人になると、主体的に取り組むことが求められます。特にこれからの時代は、必須のスキルだと言われています。

考えても考えてもどうしても浮かばず、苦し紛れに8年も前の中学時代の話をエントリーシートに書き込みました。


どちらでもいい、いつでもいい、どこでもいい、誰でもいい、何でもいい。

遊びに行くにせよ何にせよ、自分が決めたことをみんなが楽しめなかったら申し訳なくなるし、周りが全て決めてくれた方が考えなくていいから楽です。

でもそれって、自分の人生なのかな、とふと考えるようになりました。

何を食べるか、休日に何をするか、何時に起きるか。

最近では、どんな時でも自分の意思を持つことができるように、些細なことでも良く考え、決定することを心がけています。

未だにスーパーで思考停止し、立ちつくしてしまうこともありますが。


エレベーターに乗る際、上・下ボタンを間違える時があります。
1階から3階に行きたいのに、エレベーターが5階にあるから、1階に来てほしくて下を押してしまうのです。

自分が行きたい方向のボタンを押せばいいというシンプルな造りなのに、相手(エレベーター)を意識してしまうのです。

自分の意思があっても、主張するのが苦手だということを象徴しているようでした。


自分はどうしたいか考える。そして、どうしたいのか伝える。
意思表示をして、自分の人生を堂々と生きていきたいです。

意思について考えるきっかけをくれた同級生には、今ではとても感謝しています。きっとその子はあんな出来事、もう覚えていないだろうけど。
同級生には、「相手を本当に思いやるということは、時に厳しい言葉を投げかけることでもある」ということも教わりました。
大丈夫だよ、と優しく表面的な言葉をかけることもできるけれど、それは本当の意味で相手のためにはならないこともあるからからです。

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