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不便が生み出すヒット

テレビが全盛期で、歌番組が大きな力を持っていた時代の音楽媒体はCDでした。
販売枚数が100万枚を超えればミリオンヒット、200万枚でダブルミリオン、更に300万枚でトリプルミリオンと呼ばれて、人気アーティストの象徴として表現されていました。

現在では音楽を聴くのに必要な手続きは極めて簡略化されました。
メディアはデータになり、ダウンロードからストリーミングになり、聞きたい曲が聴きたい瞬間に聴ける、とても便利な世の中です。
その一方で、その時期を代表する曲やどこでも耳にする曲といった誰でも知っているヒット曲の姿が薄れていきました。
こんなに便利で手軽で、大きな対価もなく様々な曲が聴けるのに、国民的ヒットというべき曲は徐々に姿を消しているのです。

満たされていない不便さを充足させることで、商品は価値を提供したものとみなされます。
不足を満たして、便利な世の中になっていく傍らで失われていくのがヒット曲ではないかと感じています。

私が青春時代を過ごした時期はレコードやカセットテープではなくCD主流の時代でした。
8cmのシングルCDにメインとなるタイアップ曲とカップリング曲の2曲だけが入っており、半年から一年経つと十数曲がまとまった12cmのCDアルバムが発売されました。
思い返してみれば不自由な時代です。
たった2曲に1,000円を支払い、ディスクチェンジャーなんていう機能もほとんどなかったので、延々と同じ曲を聴き続けることになりました。
後にミニディスクが登場することで好きな曲だけまとめることもできましたが、当時は買った曲を繰り返し聴き続けることが当たり前でした。

今では曲もアーティストも、新旧も関わりなく、様々な曲を聴くことができます。
アルバム一枚にという制限もなく聞き流し続けることができてしまうのです。

同じ曲をひたすら聴き続ける、だから本当に好きな曲に集中することができます。
ディスクの交換の手間や、一枚一枚にかかる金銭的コストを障壁とすることで曲に対する愛着が生まれる環境ができていたのかもしれません。

人気の低下ではなく消費のスタイルが変わっていること、それは不便さの解消から生まれていること、そんな変化をマーケターは短期的なものとしても長期的なものとしても感じていなければなりません。

時代が移り変わっていくことには寂しさを感じる部分もありますが、その一方で思い出の曲を次々と聴けるというメリットもある環境です。
温故知新という言葉の通り、温めるものと新しく知るもの、その両方を大切にしていきたいものです。

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