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第2章[第4話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》


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「時々すごく男の子の顔になる時あるよね!おもしろーい」

昔片思いで好きだった女性に言われた言葉を、ふと思い出していた。男の子の顔の時、か......それはきっと、好きな人と話す時だったからだよな。あの時は深く考えてなかったけど、だったら女の子の顔の時もあったってことだよな。うん。でもそれが振られた原因になったんだよな。

あ、でも、そか、カオリが言ってたな。

「あなたは相手に合わせてきただけよ」

うん、そうだ。カオリに言われて気づいたんだった。
好きな人が女子話をしたい時はそうなってたんだよな。着ぐるみは勝手に無意識に、着替えていたんだよ。エリの時だってそうだ。恋愛モードの時は男の子。女友達モードで聴いて聴いて!な時は女の子に、勝手に切り替わっていたんだよな。まぁ...考えたら、確かに便利なヤツだったよな。

だけどノンケ女子は大抵、その内男性との結婚を考える。そうすると僕なんて物足りなくなってくる。そして、女友達モードの時間が増えて、僕も女の子の顔の時間が増えてきて、やがて「なんか違う」ってなって、振られたわけだよな。

着ぐるみの中身、本当の僕はなんなんだろう......

ずっとその疑問を抱えていた。だけどそこに目を向けるのは怖かった。だって僕はノンケのシス女子しか好きにならないと思っていたし、男性っぽくしなきゃ、誰とも付き合えないって思ってたんだよね......

ずっと自分を中性ってことにしてたし、どっちにも寄せれるXジェンダーってことにしてた。男の顔にしろ女の顔にしろ、どっちにしろそれは着ぐるみで、僕自身は中性。そう思ってたよな。

だけど……カオリが気付かせてくれた。
やっぱり僕の中には男子も女子も、はっきりといたことを。

※ ※ ※

カオリからLINEが来た。

「ねぇねぇ!今度のお休みね、梅のお花見に行かない?」
「え?梅のお花見?」
「そうそう。桜はまだまだだけど梅は今見頃よ。大阪城の近くに大きな梅林があるの知らない?あそこ、すごく良いのよ」
「へぇ!そうなんだ!行く!あ、じゃぁさ、僕、お弁当作っていくよ!」
「え??ユウが作ってくれるの??」
「うん!いつも料理はカオリが作ってご馳走してくれるじゃん?だからたまには僕に作らせてよ!」
「えー!本当?わーいユウのお料理!嬉しい!楽しみだねっ」

※ ※ ※

「こ、こんなに......作ってきてくれたの......?」

ズラリと並んだタッパーの数に、カオリはとても驚いていた。

「う、うん......昨晩遅くまでかかって作っていたらさ、なんだか楽しくなっちゃって。そしたらどんどん品数が増えちゃって。お、多かったかな......」

「ううん!嬉しい!全部食べる!ビールも買ったし、時間もあるしさぁ。綺麗な梅を見ながらゆっくり食べようよ」

「うん、そうだね、ありがとう。あ、お手拭きも持ってきたんだよ」

「あはは、気が利くね、女子力高いじゃん」

「え?女子力??僕にそんなの、あるのかな」

「あるある。わたしよりよっぽどあるかもよ?」

「えー、そうなんだ、これ、女子力なんだ」

「そうよー。それにぃ、だってぇ、エッチの時はさぁ......」

「な、何言ってんだよ、ここでそんな話...しーっ!」

「か、かわいいっ!!」

「・・・。」

カオリは僕に時折、やたらと「かわいい」を連発する。こんなにかわいい人、と絶賛してくれる。照れくさくもそれがとても嬉しい自分に最初は戸惑った。確かに昔から、僕が選んだ着ぐるみの仕草に反応して、かわいいと言ってくれる女子は何人もいた。だけどそれは「僕の着ぐるみ」が、かわいいだけで、作られた僕の仕草の反応に、僕は手ごたえさえ感じていた。

だけどカオリは、極々素のままの僕の何気ないところに、「かわいい」を連発してくれる。そこには男子も女子もなく、作られた仕草でもなく、思わず出た僕の素の姿だったんだ。

そうなんだよな。好きの気持ちに男女の垣根がないカオリといると、僕にとって着ぐるみなんてなんの意味もなかった。

パンセクシャルの人との付き合いって、こんなに楽なのか......

そしてカオリとの付き合い中、僕が僕の隅に追いやっていた本当の男の子と女の子が望んでいたものを、大事に出来るようになった。
例えば、シンデレラストーリーのような王道の少女漫画も大好きだし、可愛い下着だって買えるようになった。職場には花柄のお弁当箱に毎日自分で作った手料理入れて持ってってる。
でもスカートはやっぱり嫌いだし、靴だって男物しか履かない。何より格闘技はやるもの観るのも漫画だって大好きなんだ。自分で自転車の修理をするのも好きだし、シルバーアクセサリーも好きだ。

結局本当の僕は、小さく幼いあの頃に、近所のお友達と自由に遊んで、男女の垣根なんてなく大事にしていた僕とわたしだったんだ。

そうして自分の中の男の子も女の子も、分け隔てなく大事に出せるようになった僕は、自分の性自認のそれが、いわゆる一般的な男女の枠に当てはまらない実感を持つようになった。

僕は......そうだ。ノンバイナリーだ。


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