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ブーケトスで選ばれた女性

そのブーケは、まっすぐに飛んできた。
私の左胸に、数十本の可愛らしいバラの愛の束が飛んできた。ずっしりと収まる。重い。

華やかな装いの女性ゲストたちが一斉に私を見る。わっと歓声が響く。大きなカメラが私の笑顔を捉えた。


初めてだった。
これまで何度も結婚式に参列して、淡い期待を胸にブーケトスを迎えてきたし、

今度こそは、私のもとにやってくるかな、、?
と意気込んだりもしたけれど、

その想いが叶ったことはなかった。


受け取らなすぎて、もう私はブーケトスとは無縁なんだと思っていた。


それが今、私の胸にしっかりと、花嫁から回ってきた幸せのブーケが抱かれている。ついに、幸せが回ってきたのだ。


ちょうど昨年の今頃、ローズが街を彩る季節、私は恋をしていた。のちにそのお相手と付き合うことになるのだが、すぐにお別れすることにもなる。


まだそんな未来も見えぬ澄んだ青空の下、昨年の当時、友人の結婚式に出席していた。今回とまったく同じパーティー用ドレスと薄手のコートを着て、同じ髪型で。


自分自身の恋は順調に進み、久しぶりに会う同級生と幸せオーラで恋バナに花を咲かせる。もうすぐカップルになると確信できるくらい、恋は安定していた。今日のブーケトスは、まさに私にやってくる...そう信じていた。


しかし当時のブーケトスは、まったく知らないゲストの元へ飛んでいった。こんなにふさわしい人がここにいるのに、なぜ来なかったの?
期待と高鳴りは盛大に空振りし、疑問と不満、そして苦しみに変わった。


その一連の心の動きは、そのままその恋の象徴となった。期待と高鳴りで付き合ったけれど、すぐに疑問や不満が生じ、苦しくなっていき、スピード破局した。


ブーケは知っていたのだ。
その恋に花は咲かないと。



1年後、ブーケはまっすぐに飛んできた。
何の迷いもなく、何も躊躇わず、まるでそのコースしかそこに存在していないかのように。

ブーケに意思があるようだった。
花嫁に「投げられた」のではなく自ら「飛び込んだ」ように感じられた。


それくらい、まっすぐにこちらにやってきたのだ。


花嫁は大きな笑顔で笑った。


「あなたに取って欲しかったの」



私に...?



全国の花嫁が、どのような気持ちでブーケトスをしているかを私は知らない。

ルーレットのように、回したらそこに止まった。のような具合で投げる方が普通なのか、実は密かに狙いを定めて、一番取って欲しい人に向かって出来る限りその人の方へ投げるのか。


ただ、きっとこの日、花嫁は私に向かって投げてくれたんだと思う。それは、投げる方向や速度を技術的に調整したというよりも、そうしたくなる或いは無意識にそうなってしまうような確かな想いを私に対して抱いていてくれたから、ブーケは私の元に到着したと思っている。


「この前会った時、楽しそうに話していたからさ。もし今の彼に不満や疑問があったら、ちょっと違うなって思ったけど、そうじゃなかったから、あなたのところに行って欲しいと思ってたの!」


受け取る側は運試しのような感覚でわくわくしているだけかもしれない。でも花嫁からしたら、自身の大切な日に、大切なブーケを大切な誰かに幸せになってほしくて、たった一回のトスをする時にある意味そこに責任とまではいかないが、何かしらのきちんとした思いを託して投げる可能性は大いにある。


そうだとしたら、少なくとも私に関しては、すべてはなるべくしてなっていて、私がこれまで数々の結婚式で一度もキャッチしなかったことも、今度こそはと意気込んで消沈した昨年の今頃も、そしてついにキャッチした今回も、そうなるべくしてなっている。と言えるかもしれない。


もちろん実際の今後のことはわからない。
どうなるのか、どう展開していくのか。


わからない未来に対し、それでも花嫁は確信してくれていたのかもしれない。ウェディングパーティーの数ヶ月前に会った時の私の表情や話す内容、雰囲気から色々なものを感じ取り、予測し、決めてくれていたのかもしれない。

きっと恋愛において「そのまま幸せになってほしい」と思われるような関係性を相手と築けている時、それは本物であり、周りにも伝わり、心から応援されるようになる。


私たちの未来を信じてくれたことが、嬉しかった。


私もいつか、花嫁から幸せのお裾分けを受けたように、愛の花束に真の想いを乗せて、誰かに幸せのお裾分けという応援のトスをできるだろうか。

丸い花束がずっしりと左胸に沈み、ハートの奥深いところまでそのエネルギーが届き、満月のように満ちていく、そんな美しく幸せな一投を。


大切な人の 大切な人生へ贈る ブーケトス


それはきっと単なる運試しではなく
花嫁からの、心からの友情と愛情です。



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