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旦那様はザビエル様!?

 旦那様である『おいたん』は祈る。毎朝祈る。時には一日に何度も祈る……。

 まずキリスト様とマリア様の祭壇に。それから神道の神棚に。そして仏教の教えの本を読み漁り、霊界の本を読む。BGMは怖い話の朗読劇だ。

 スピリチュアルなのが好きな人なのか? と思われるがそれは違うらしい。

「お金を搾取する霊能者は偽物だ」

 と、おいたんは言う。

「お金を取ると霊力が消え失せる」

 とも言う。

 私からしたら頭の中が??? である。ちなみに、おいたんは占いの類を一切信じない。

***
 
 おいたんは初デートの時私にプレゼントをくれた。十字架のネックレスとパワーストーンのブレスレットだ。

 後から聞いた話、おいたんは私が精神病ではなく悪霊や悪魔に憑りつかれているのではないかという疑問の真偽を正すためにそれらをくれたらしい。

 前にもいたな、そんな人……。

無雲むうん! お祓いに行こう!」

 と、散々言ってきたのは先祖代々神道の元カレK君だったな……。

***

 おいたんは宗教に傾倒しているが特定の団体には属さない。理由はこうだ。

「人間関係が発生するのがめんどくさい」

 そうなの? よく分からないけど、顔見知りになって「この後お茶でも」というのが面倒らしいが、何よりおいたんは「社会に出てきて知り合った人間なんてちょっと心を許すと金の話してきてよぅ」と言う。おいたん……それ、おいたんの周囲の人だけじゃない?? でも、今の世の中それくらい警戒してないと、都会では騙されちゃったりするかもね!! ポジティブに解釈しましょう。
 
 そもそもだ、おいたんはキリスト様やマリア様の教えを守り、さらには八百万の神を崇拝し、さらには僧侶の教えも学ぶのである。特定の団体を探すほうが困難である。

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 私はたまにおいたんの事を『人生をかけて私を特定の団体に所属させようとする宗教の勧誘』だと思ってしまうことがある。それくらい「俺の持ってる本を読め!」とうるさい。

 だから私はおいたんにそういう本を朗読してもらう事にした。寝る前の三十分間、霊界関係の本を朗読してもらう。おいたんは意外とイケボだ。私は毎日良く眠れるようになった。

 おいたんの所蔵する『失楽園』はエロいやつじゃない。ミルトンのやつである。ガチで天使と悪魔が戦うやつだ。そういう漫画を読んだことがある。耽美な画風で知られる由貴香織里先生の『天使禁猟区』だ。もちろん『失楽園』も寝る前に朗読してもらった。天使と悪魔が戦っている事に相違はない。とても血沸き肉躍る内容だった。

***

 おいたんが買い物帰りに寄るのはコーヒーショップではない。

「ねぇ、神社参拝して行こうよ!!」 

 あ、はい。神社に行くのが初詣だけの私とは違い、おいたんは月に数回は神社にお参りする。それもお供えを持って。

 参拝がてら一眼レフで神社や仏閣を撮影してくるおいたんだが、これだけは言いたい。

 知らん家の墓を写してくるなぁ! 『何か』が写るだろうがぁ!!

***

 おいたんに某夢の国に一緒に行こうと言ったら、何故か長崎に連れていかれた。そう、飛行機に乗って。

 目的は教会でお祈りをする事。

 おいたんは、シスターと難しい話をしていた。私には到底付いていけない専門的な話をしているようだった。

「教会関係者の方ですか?」

 プロと間違えられた。でもおいたんはただの宗教マニアの一般人だ。

***

 こんなおいたんだが、その純粋さと生真面目さは愛すべきキャラクターである。でもおいたんは、元からこんな仏みたいな人格ではなかったらしい。

 そう、おいたんは昔ヤンチャだった(本人談)。

 しかしそんなある日、不思議な出来事が起こったそうなのだ。

 ある日おいたんがバイクで出かけた時だった。職場でイライラしたおいたんはぷんすかしながらバイクに乗ろうとした……すると……。

 バイクのシートの上に聖書が1冊置いてあったらしい。

 誰が?
 何の目的で??

 それは分からなかったがおいたんはその聖書を読破した。そして自らを戒め生活態度も行いも全てを見直し、今のようなパーソナリティーへと変わったらしい。

 誰だかわからないけどおいたんを優しい道に導いてくださってありがとう!!

 きっと神様の仕業です。

 おっ。私もおいたんと居るうちに神様について考えるようになってまいりましたね。

 そして私はこう思う。

 おいたんは────ザビエル様(宣教師)みたいだなって。

────了

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