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取材した怪談

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私が取材した心霊的・不可思議現象の話です。
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#怖い話

【取材した怪談話133】立入禁止の防波堤

雅史さんの父親は、大の釣り好きだ。 ある年の冬、彼は単独で夜釣りに出かけた。レイヤリング(重ね着)して防寒対策を施していたが、それでも夜間の冷え込みは身にこたえる。 その日の釣り場は、とある防波堤と決めていた。沖合に向かって一キロメートルほど延びる防波堤で、高さは五メートルぐらいある。標的魚種は、カサゴやシーバスだ。立入禁止区域なのだが、極めて良好な釣行環境の誘惑には抗えず、つかつかと侵入していった。アングラー(釣り人)の性である。 クーラーボックスを担ぎ、釣り竿入りのケ

【取材した怪談話132】グレーの作業服の男

バタンッ ある夜中。中学三年だった雅史さんが二階の自室で寝ていると、いきなり部屋のドアが激しく開かれた。 反射的に目覚めたが、吃驚しすぎて動けない。 敷布団に寝たままの状態で、ドアの方に視線を向ける。 全く知らない男が、ズカズカと大きな足音を響かせながら押し入ってきた。 「最初は、家に侵入してきた不審者だと思いました」 中年と思しきその男は血相を変え、すこぶる憤慨している様子だ。 仰向けになっている雅史さんの上に跨って立ち、両腕で胸ぐらを掴んでくる。 グレーの作業服。

【怪談実話124】喰い殺すぞ

「金縛りによく遭うんです。ライトなものからヘビーなものまで。他の方の金縛り体験にも似通いますが、身体が動かない、目は見えてるという状態。意識だけが醒めさせられる感覚ですね」 そう教えてくれたのは、沙織さんという三十代の女性だ。 是非ヘビーなものを聞かせてください、とお願いする前に、彼女のほうから以下のヘビーな体験談を明かしてくれた。三十歳頃のある夜、いつものように金縛りに遭った時のことだそうだ。 「小さめの手で、左腕を触られる感覚がありました。ああ、触ってくるタイプか、

【怪談実話123】旧吹上トンネル(東京)

※行きずりの方から断片的に伺ったお話で、取材が不十分な点があります。 ・・・ ある年の夏、大学生A君は、B君、Cちゃんを含めた数人で車に乗って吹上トンネルに向かった。ちょっとした肝試しだ。 「吹上トンネル」は、東京都青梅市の吹上峠に設けられた三本のトンネル群の総称である。 ・新吹上トンネル:自動車の通行可能 ・旧吹上トンネル:自動車の通行不可(歩行者は通行可能) ・旧旧吹上トンネル:完全封鎖 これらのうち、旧トンネルと旧旧トンネルは東京屈指の心霊スポットで、彼らが赴い

【怪談実話120】X号室の経緯

徹さんは小学生の頃、近所の幼馴染Aの家によく遊びに行っていた。二階建てアパートのX号室だ。玄関を入ると六畳の和室があり、奥に四畳半の和室が続く。 Aは片親で、夜間業の父親と二人暮らし。遊びに行くといつも六畳間でAの父親が寝ており、その脇をそろりと歩いて四畳半のAの部屋に入っていた。父親の隣で交際女性が添い寝している時もあり、あまりジロジロ見ないようにしていた。 四年生のある日、いつものようにAと一緒に下校し、「また明日」と手を振って別れた。 数時間後。徹さんが自宅でニュース

【怪談実話103】瞬光

「体操は危険なスポーツで、事故も多いんです。だから怪我しないようにと、定期的にお祓いに行ってました」 そう語り出してくれたのは、体操競技の経験者である美穂さんという女性だ。本エピソードは彼女が小学6年生の時の出来事である。 ・・・ 当時彼女は、ある大規模な試合に向けて日々練習に明け暮れていた。 その試合の何日か前に、いつもお祓いを受けている神社に足を運んだ。その際に神主さんから出た言葉は、意外なものだった。 「次の試合、良からぬ気配を感じる。どうしても出なきゃならんの

【怪談実話101】寮に潜む女

ある高校野球の名門校の寮でのエピソードです。いつもの4〜5倍の文量ですが、野球部員ならではの結末が待っているので最後まで読んでいただければ幸いです。 ・・・ 10年前、A君が高校の野球部に入学して間もない時期の体験談である。 彼は中学卒業と同時の親元を離れ、高校野球の名門校に進学して寮で生活することになった。その高校は歴史が長く、寮も年季が入っていた。 寮には野球部員が数十名ほど住んでおり、その約3分の1が新1年生だった。寮は2人部屋で、A君は同じ野球部1年のB君と同

【怪談実話100】著作紹介『実話怪談・犬鳴村』

竹書房さんから『実話怪談・犬鳴村』という文庫本・電子書籍が出版されています。 本書は、第一部と第二部から構成されています。 第一部には、日本屈指の心霊スポット・福岡県の犬鳴村/犬鳴トンネルに関する地理・歴史などが写真、図面、文章で紹介されています。 第二部には、犬鳴村/犬鳴トンネルに関する実話怪談が25篇収録されています。多くの作家さんが寄稿しています。 私も「水」という実話怪談をムーンハイツ名義で収載いただいたので、それを100話目とカウントします。内容をnoteに

【怪談実話99】巻き戻し?

28年前、女性Kさんは高校3年生になる前の春休み、友人のツテで新聞配達の短期アルバイトに勤しんだ。2週間、朝刊だけ100部を自転車で配達して回った。勤務先は大阪市内の配達所で、本エピソードはその職場の女性先輩からKさんが聞いた話である。 その先輩が、あるマンションに新聞を配達する時のこと。 エレベーターを利用して上階から下階へと配達するのだが、箱に乗るといつも人の会話が聞こえてきたそうだ。 「エレベーターの中でだけ、天井の方から人の話し声みたいな音が聞こえたのよ。朝4時頃

【怪談実話98】巻き戻し

霊感の強い男性Tさんは30代の時、精巣癌を患ったことがある。疾患が判明した時点で既に末期だった。全身に転移が進行している可能性が高く、助かる見込みが極めて薄かったそうだ。 もう自分は長くないと思った彼は、残された時間で何ができるか、自問自答していた。その結果、家族に金銭を残したいと思うに至り、当時住んでいた地域のパチンコ店の景品交換所の場所を全て調べ上げ、強盗を計画していたほどだった。 だが検査の結果、奇跡的に癌の転移が全く認められず、精巣腫瘍の摘出により一命を取り留める

【怪談実話96】頭に何か憑いている

7年ほど前のある夜、女性Kさんは、同居人の女性、知人の男性Xさんと3人で自宅近くの飲食店でディナーを楽しんだ。Xさんは種々の仕事を兼務しており、霊能者としての一面もある多才な努力家だ。 夕食後、皆でKさん宅でお茶しよう、という流れになった。帰宅するや否や、Kさんは「頭に何か憑いてるぞ」とXさんに指摘された。 彼の指示により、Kさんはダイニングの椅子に座らされた。Xさんは彼女の背後に立ち、数分間(5分ぐらい)にわたり念仏を唱え続けた。その間、ときどき両肩と頭部にそっと手を置

【怪談実話88】子牛

※動物に関して酷な描写が含まれますので、苦手な方はご遠慮ください。 ・・・ 男性獣医師Nさんが獣医学部生だったころ、2年次の必修科目『解剖学実習』で子牛を解剖したことがあった。 解剖学実習の流れは、以下のとおりだ。 ・生きている新鮮な子牛を、学生が屠殺する。 ・皮を除去し、筋肉をスケッチする。 ・筋肉を除去し、内臓をスケッチする。 ・内臓を除去し、骨格をスケッチする。 ・廃棄処分。 実習は、解剖専用の実習室(解剖実習室)で行われる。1日では全て終わらないため、屠殺し

【怪談実話87】インターフォンとトランク

男性Aさんは、S県のオートロックマンションの5階に住んでいる。自宅のインターフォンは、共用エントランスのチャイム音と、玄関先のチャイム音が異なるタイプだ。 3年ほど前のある夜。0時半ごろ、自宅のインターフォンが「ぴんぽん」と鳴った。インターフォンの音は、玄関先のチャイム音だった。つまり、エントランスのチャイム音が鳴らない状態で、いきなり玄関先のチャイム音が鳴ったことになる。 Aさんも在宅していたが、そのときは息子さん(当時19歳)が応対した。彼がドアチェーンを掛けたままド

【怪談実話86】青木ヶ原樹海1(山梨)

元陸上自衛官Sさんから伺った話。 2015年の秋、深夜2時ごろ。 彼が所属していた部隊は、夜間戦闘訓練の最中だった。 訓練の内容は、最初にヘリコプターで山梨県の青木ヶ原樹海、いわゆる富士の樹海の上空を移動し、所定の目的地に降下後、想定上の敵部隊(実際は他の自衛隊員)と模擬交戦するというものだ。 どの地点にどのくらいの敵の数が配置されるかはSさんらには知らされておらず、駐屯地の作戦本部が把握・管理している。何か異状事態に陥れば、本部に無線で逐一連絡して指示を仰ぐ規則だ。