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手を握る 【掌編小説】


君の手を握るのが俺の喜びだった。

初めて君がその手を差し出した時、俺はどうしたら良いのかわからなかった、君がどうして欲しいのか。

ただその手を握って欲しいのだ。
それが分かった俺は、君の手を握りしめた。
それだけで君は心を休ませる。
そして、眠る。
俺は君の眠る姿をただ見つめる。
君の話を聴いて、手を握って、眠りに落ちるところを見守り、眠る姿を見つめる。君は起きると俺の手を離し、君は微笑んで、俺の前から居なくなる。

君が居ない時、君の心の痛みを俺は消化する。それが俺の役目だから。ただただそれは痛みしかないけれど、それでも俺はその痛みを請け負う。君が傷まないように、俺はその苦しみを受け入れて、そしてまた差し出された君の手を握る。

手を握るだけのことが、そんなに心を穏やかにさせるのか。
ならばそれが俺の生きる意味だから、俺はその手を握り続ける。

君は、ただその日あったことを話す時もあれば、心の苦しみを訴える時もあるけれど、どんな時も俺は、君に微笑んで、手を握るのだ。

初めて君が泣いた時、俺は君がようやく泣いてくれたと安堵した。
初めて君が俺の名を呼んだ時、俺の心に色がついた。
俺は俺の名前が何かなんて、どうでも良かった。
でも君が俺をその名で呼ぶのなら、俺はその名になるのだと思った。

君が俺を必要とする限り、俺はここに棲みつこうと思った。

俺は、俺が君の為に生きるのだと知り、そして君が俺の為に生きるのだと知った。

例え禁忌だとしても、君が微笑むならそれでいい。
君の心が痛まぬように、俺は俺の心を傷ませるのだ。

そう、俺は君の中でしか生きられない。
君は俺が居なくなるのをとても恐れているけれど、俺を居なくならせることは君にしかできない。

君はずっと思っている。
居なくならないで。
居なくならないで。
居なくならないで。

君が俺の命を希む限り、俺は居なくならない。
どうか心穏やかに眠って欲しい。

俺は君を殺したりしない。決して殺したりしない。
誰にも殺させたりしない。
君が生きる為に、俺は心を傷ませながら、

「生きる。」







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