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10月20日、午前5時30分。
この季節の晴れの日の空は、いくつになってもワクワクさせてくれる。

窓を開けると、優しく鼻に触れる、まろやかな、空気の冷たさ。
突き刺すような冷たさまでは、あと2歩くらいかしら。

キンモクセイの香りと、朝が冷え込んできたら必ずつくる朝食の豚汁のにおいは、毎年セット。
味の決め手は、ごま油で炒めるごぼう。


このワクワクの始まりは、わたしがまだ幼稚園に通っていた頃だと思う。
友達家族と、はじめてディズニーランドへ行く日の朝だった。

前日から、楽しみすぎてまったく眠れずに朝を迎えたわたし。
まだまだ外は暗く、肌寒い朝だった。
身支度をし自宅を出ると、そこには綺麗な朝焼けと、心地よい空気が広がっていた。

いつもはまだ眠っている時間に外にいる、という背徳感も、ワクワクを助長していたと思う。

今でもはっきりと記憶に残っているほどに衝撃を受けた、美しく、ワクワクで心が満ちていた朝だった。

でも実は、ここまではっきりと当時を覚えているのには、もう一つ別のエピソードがあるから。

自宅を出て、駅まで向かういつもの道を歩いているときだ。
「あさは、きもちいね!」と、母親に声をかけた。
すると母親は、「気持ちよくなんかないわよ!いいから速く歩きなさい!」と、少しヒステリックになりながら、わたしを怒った。
そして母の足は、ついていくのがやっとなほどに、速くなった。

これもまたこれで、ある意味衝撃的だった。
晴れやかで、ワクワクでいっぱいだったわたしの心は、あっという間に小さく固まってしまった。
気持ちいいと伝えることが、こんなにいけないことだったのかと、驚いた。

なぜ怒っているのか、当時はわからなかった。
でも母になった今は、なんとなーく、なんとなーくだけれど、わかるような気もする。

それでもわたしは、絶対にしない。

幼い頃に受けた衝撃は、良くも悪くも、一生記憶に残ることを知っているから。

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