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虚ろさと柔らかいパン

最近、鬱気味になっている。
朝、目が覚めて洗面台のところへ行くと
瞼がだらんと半開きで、今にも死にそうだ。

ご飯もあまり食べたくなくって、
常温で外に出していた
新品の野菜ジュースを飲んだ。

歯が赤に似たオレンジに染まり、
口の中がじゅっと甘だるくなる。
そののどこしや、飲む行為自体
飽きてしまって、
充電していたスマホをただひたすら
眺めた。

でもYouTubeを開いても
特に観たい動画も無くて、
ただランダムで開いた動画の冒頭部分を
観ては閉じ、次のを開く。
そしてまた閉じる。

好きなお笑い芸人のラジオ収録が
Spotifyでアップされたのを聴いてみても、
全然、集中ができなくて結局閉じた。

そして天井を眺めていたら、ふいに
言葉に出た。

「死んでやろうかな。」

言葉にすれば、何かすぐさま実行しなければ
いけない気がして、

「今じゃないけど。」と付け足した。

不本意な言葉を出した感じが喉奥で
ざわめいて、人差し指の爪で首を掻いた。

何事も手に取れない時、
タテタカコさんの「あした、僕は」を
聴く。
こうすることで訳もなく涙が出る自分を
撫でて、延命できる気がする。

歌声を聴くたびに、遠くで煌めく星を思う。
雨に打たれる落ち葉の裏のほんの少し
濡れた土を思う。

死にたくて、でも実行する元気もない私の
うちに眠っていた優しさが、彼女の歌に
感化されて呼び起こされ、
憂鬱にさらわれた私自身が少しずつ
取り戻されていく気がする。

「あした、僕は、どこへ行こうか。」

誰にも届かない独り言を呟いては、
自分の悲観さをただぼうっと見つめている。

言葉にならないグレーの鉛を
重だるく身に纏って、
足を引き摺りながらそれでも
足を止めてはいけない世の中だから、

気付かないままでいたかったな、
自分がこんなにも脆くなって壊れていること。


炎で溶け出して、徐々に体を捻じ曲げて
屈折していく蝋燭のように、
体がもろもろと溶け出して、
溶けたところからすぐに冷えて、
あいまいな輪郭で醜くなったまま
固まっていく。

体の関節はぎこちなく、
動きが悪くなっていく。

私が悪くなっていく分、
周囲の人や自然の綺麗さは
ただ増すばかりに思える。

黒く燻んでいく私の瞳に映るあなただけ、
きらきら反射して、輝く。

綺麗、綺麗だな、綺麗。

美しい物を美しいと思える感覚が
自分には備っていて良かった。

それは神様のプレゼントだと思う。


マーガリン入りのバターロールを食べた。
バターロールなのにマーガリン入れんなよ。
ただひたすらに柔らかいパンの肌を
指でぎゅっと押した。
指あと、拇印みたいだ。

鬱の自分だけ固くて、醜い。
みんなは柔らかくて、綺麗。

綺麗、綺麗だな、綺麗。

いいな、いいな、

ほしいな。

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