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「とり残されないやうに」

雪の結晶を拡大すればあんなに奇麗だなんて、
教えてくれてゐたならば、きつと私は良い子でした。
潮の満ち引きと友達になりたくて、
磯にとり残されたときの歓びを忘られないのです。

真夜中の学校は卒業式よりも美しくて、
誰もゐない教室の椅子たちは支配者からの解放を高らかに唄ひ、
差し込む月灯かりは昼よりもなほ昼らしく、
この独立記念日を祝ひながら私の心を捉へたのでした。
それが刹那の幸福であつて、
陽が昇ればまた尻に敷かれるやうであつても、
一瞬の幸福だからこそ、我々はより確実に勝者なのでした。

「この怨まれる祝宴を永らへませう!」
指導者のゐない教壇を蹴飛ばせば、
教室といふ概念なんて簡単に吹き飛んでしまうのです。

校庭に佇む二宮くんが熱心に読む本に栞を置きませう。
あなたの取り入れた知識が、永久であると信じて。
私が生きた瞬間が、飽和しないやうに。
君が生きる瞬間が、夜にとり残されないやうに。


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