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「つゆやどり」

いままさに雨が降ったんだ
君の前では涙など 見せたことはなかったよね
昼下がりの窓辺で 淀んだ空の匂いを感じて
君が僕の代わりに泣いてくれたんだと思った
そう思うことにしたんだ

雨に打たれ 花が散って また春がひとつ終わった
夏を前にこの雨が来たんだ
春の名残りを洗って洗って ひどいくらいの花流し
綺麗になった思い出は 空っぽになったんだ
今日まさに雨が降ったんだ

君なんて居なきゃ良かった
足許にからみつく花を 踏むも掬うもできなかった
徒然と煙草くわえて軒下で 雨止みを待っていたら
この雨が君の代わりに足止めをしていると思った
そう思うことにしたんだ

雨に打たれ 火が消えて また僕がひとり残った
記憶に影がひどく残ったんだ
君の名残りは翳んで陰って きっといつか忘れ去って
いつの間にか晴れた空に 青ざめていったんだ
いままさに雨が上がったんだ

日に射されて 心も晴れて やっと涙がひとつ伝った
僕を前にあの夏が来たんだ
夏の陽射しは緑に照って その木漏れ日に寝転んで
どこまでも澄める空に 青い風が頬を撫でた
いまがまさに思い出になったんだ
そう思うことにしたんだ

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