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「踊らされないやうに。」

あの頃奇麗だつた踊り子の衣裳も、
もうすつかり青ざめてしまつて、
月の凪い夜だけならとこつそり、
影のない陰が舞を捧げてゐるのです。

「しあはせな人生を送りませう!」
にんまりとした先生の口からは、
よだれのやうな讃歌が止め処ないので、
思はず堪へた嘔吐きが気づかれないやう必死で、
美しい黒板の文字がずつと思い出せないのです。

心の重さを知りたいから、放課後は
電子秤のうへにボールペンを置いて、
あとは指先を乗せてみたのですが、
数値は変はらず「21g」を表示しつづけるのでした。

泣きたいのなら泣きませう!
電球だつて疲れたり限界したりすれば、
あつといふ間に切れてしまうのですから。
それでも彼はいまだに私の夜の読書を援けてゐます。
昼の間は必要とされなくても。
夢までは届かないとしても。

だからどうかあなたは口を開いて
自身の澱を吐き出してでも、
商店街を駆け抜けませう!
約束の坂道はきつと遠いでせうから、
雲に訊いてごらんなさい。
私はそこで待つてゐますから。

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