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満月

あの日は切った爪みたいな月だった。どうしてもそこに引っかかりたくて毎晩手を伸ばしていたのに、だんだん丸みを帯びていく月を見て、裏切られた気持ちになる。満月はうつくしいとずっと思ってきたのに。満ちて、光り輝いて、欠けてすらいない月は完璧に夜空を支配する権利を握っているかのようだった。


完璧は幻想で、欠けていても許されると知ったのはつい最近のことだ。ずっと苦しかった。なんでわたしは完璧になれないのだろうって。あと「ここ」がどうにかなれば上手く付き合えるのにって。「ケアレスミスをなくす」。これは学生時代に耳にタコができるほど自分に言い聞かせた言葉だ。満点を目指すために言い聞かせた言葉に、今もじぶんは囚われて苦しんでいる。時を超えて現れた言霊にいなくなって、と言っても脳のしわに刷り込まれた言葉は消えない。


あれから二ヶ月経って、また切った爪のようなか細い月を見たとき、うつくしいと思った。消えかかるのか、これから膨らむのか、天体に詳しくなくて分からなかったけど、満ちていなくてもそれはうつくしかった。うつくしかったし、うらやましかった。ずっと、できないことがあっても許されたかったんだと思う。手を伸ばしてみた。わたしはそこに辿り着くことも、引っかかることもできないことを許せた気がした。

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