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2023年詩

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#自然

128「詩」咲いている

128「詩」咲いている

カーテンを開けたら
朝顔が咲いている

誰かのためでなく
かといって
自分のためでもなく
咲いている

自然の大きな流れの中で
日差しに向かって
咲いている

贈り物のように
咲いている

72「詩」ヤマボウシ

72「詩」ヤマボウシ

ヤマボウシが空に向かって咲いている

人間から見えないところで
空にだけ向かって咲いている

冬の間暖めてきた願いを
花びらは天に届けている

食い込むように大地を掴んでいる根っこ

根っこが
冬を耐えた大地の温もりを
伝えると
陽の光を身体いっぱいに感じながら
ヤマボウシは蕾を開きはじめる

祈りを花びらに託して
どこまでも白く

71「詩」朝

71「詩」朝

それでも
ひとすじの光は射す

それでも
かわらない朝はくる

自然の法則を守って
同じ時期に同じ花が咲く
同じ時期に同じ星が輝く

ひしめき合った人間たちは
幸せへの方向を見失ってく

人々のためにと考えたあげく
自分のためだけに動いている

注意深く
自然の声に耳を傾けてみる

足元に咲いた名も無い花でさえ
何が正しいのか
その答えを知っているはずだ

54「詩」桜の花だった

54「詩」桜の花だった

桜の花だった

母に手を引かれ
真新しい水色のワンピースを着て
小学校の門を通り抜けた日
祝福の眼差しを注いでくれたのは
桜の花だった

受験に失敗し
これからの居場所も無く
自信をすっかり失くしていたあの日
大丈夫だよと傍に舞っていたのは
桜の花だった

たくさんの生きたかった命が失われた
あの春

言葉をかければ
さらに傷つけてしまうほど
人々の心は深く傷ついていた

かける言葉さえ見つからな

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9「詩」 春への旅

9「詩」 春への旅

1番ホーム発車いたします
閉まるドアにお気をつけください

そうして旅が始まった

重い荷物は
駅のロッカーにぜんぶ
置いてきた

持っているものは
わずかな小銭と
一冊の本

朝日が西に向かって
昨日より短い影を
床に描いた

行くあてなどなかった

各駅停車のローカル線
駅に着く度に
凍えるような
けれど
澄んだ空気が流れて

一駅一駅
私の身体は透明になっていく
のが
分かった

車窓から見

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