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【日本全国写真紀行】 59 愛媛県西予市明浜町狩浜

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。



愛媛県西予市明浜町狩浜



段畑散策3キロのコース、歩く価値はあります。

 西予市の南西部に位置する明浜町は、宇和海に面し、入り組んだリアス式海岸が東西約14キロにもわたって続いている。中でもこの狩浜は、地区全体が宇和海に面していて、集落の後ろにはすぐ近くまで山々が迫り、平地は極端に少ない。民家は海に沿った細く狭い平地に密集して建ち並び、耕地は背後の山の斜面に階段状に広がっている。これらは段畑と呼ばれ、山のてっぺんまで続く畑と石垣の連続は、文字通り「耕して天に至る」絶景を成している。
 宇和海沿岸の段畑の石は地域により違うが、狩浜の段畑は地元産出の石灰岩で築かれている。抜けるような青空の下、幾重にも連なる灰白色の石垣が緑の中に見え隠れする自然の原色のコントラストは、他では見られない独特な光景だ。江戸時代より半農半漁の暮らしが続き、現在も漁業では真珠や魚類の養殖業とシラス漁が行われている。海には真珠の養殖筏が浮かび、浜にはシラスを干す干し場が点在する。段畑は江戸時代、自給用の芋や麦を栽培していたが、明治に養蚕が始まると、桑を植える畑になった。その後、昭和30年代からはみかん栽培が盛んになり、現在では県内有数のみかんの産地となっている。狩浜は、段畑だけでなく集落も昔ながらの家並みが残っていて、ノスタルジックな雰囲気が漂っている。集落内には狭い路地が通っていて、家屋は大体南に面して建てられている。ほとんどの家が主屋の他に付属屋を建てているのもここの特徴で、作物倉や養蚕、みかん小屋などに使われているようだ。
 集落をひと通り歩くと、すぐに段畑の山に登る道が始まる。平成31年に狩浜全域が「宇和海狩浜の段畑と農漁村景観」として選定され、段畑を訪れる観光客が急増。海岸沿いの狩江公民館に来訪者用の駐車場が用意され、段畑散策コースの案内標識も建てられた。愛媛県には段畑が数多くあるが、ここ狩浜のように遊歩道が設置され、散策コースが作られているスポットはそう多くない。散策コースは徒歩で約3キロ。この図に従って歩けばスムーズに段畑に辿り着けるので、ぜひ利用されると良いと思う。
 狩浜の段畑は標高200メートル前後まで、約130ヘクタールにわたって築かれており、中には百段を超える斜面もあるという。各畑は奥行き3メートル前後で段を作り、両脇に水路を通す。石垣の高さは大体1メートルほど。水路の脇や段畑内には、集落から各家の畑へ行くための共通の通路や階段が設けられている。集落側から見上げる段畑はもちろん圧巻だが、段畑の上から見る海と集落の景色も負けずに素晴らしい。山道はちょっときついが、3キロ歩く価値はあります、とお約束しよう。



※『ふるさと再発見の旅 四国』産業編集センター/編 より抜粋



海岸から山に向かって集落が開ける
海岸から山に向かって集落が開ける
標高200メートルの山の頂上まで続く段畑
標高200メートルの山の頂上まで続く段畑
標高200メートルの山の頂上まで続く段畑


入り組んだリアス式海岸の海は、鏡のように静かだ
入り組んだリアス式海岸の海は、鏡のように静かだ




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