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第3橋 魅力的な岩国の空港から 一足飛びに錦帯橋へ! 錦帯橋 前編 (山口県岩国市)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。
渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。
「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。
——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!

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魅力的な岩国の空港から
一足飛びに錦帯橋へ!

 
 空港名からして惹かれるものがあった。岩国錦帯橋空港——「橋」好きな旅人にとって、たまらないネーミングである。

 日本の地方空港はユニークな名前が多い。たとえば「おいしい山形空港」だとか、「宮崎ブーゲンビリア空港」など。ほかにも「鳥取砂丘コナン空港」「徳島阿波おどり空港」なんてのも面白い。いずれもその土地の名物だったり、ウリとなるものを冠することで、地域のピーアールを兼ねているのだろう。

 しかしながら、橋を名前に取り入れているのはここだけだ。

 山口県には空港が二つもある。空の玄関口として長年親しまれてきたのは、もう一つの山口宇部空港のほうだ。岩国錦帯橋空港は平成24年開港と、まだ新しい空港といえる。山口県東部、広島との県境の岩国市に位置する空港である。

 米海兵隊岩国航空基地との軍民共用空港となっているのも特徴だ。路線は羽田線、那覇線のみと少ないが、羽田線のほうは1日5往復と他県の同規模の空港と比べて便数が多い印象も受ける。

 個人的に初めて乗る路線だったが、朝イチで羽田を立つ便はかなり混雑していた。平日だったせいか、スーツ姿の出張風の男女が多い。大変失礼ながらマイナー路線を想像していたから、内心密かに驚いてしまった。

 岩国錦帯橋空港は市街地まで近いのも魅力である。JR岩国駅まではバスでわずか約7分の距離。お隣の広島が、空港がやたらと辺鄙な場所にあったりするので、広島へ行くときも場合によっては岩国経由のほうが利便性が高そうなほどだ。

 とはいえ、今回もレンタカーである。飛行機でビュンと飛んで、現地の空港から車で出発する。時間効率は最高だし、荷物の心配も無用。何より、自分のペースで好きなように旅を進めていけるのが我が儘な旅人向けなのだ。

 そんなわけで、空港を出る。そうして、まず向かった先が——錦帯橋である。いきなりお目当てのスポットから攻めるのだ。だって近いんだもの。空港から、わずかに7km。所要15分ぐらい。道中寄り道しつつ、やっとこさ目的地に着いたときの感慨はひとしおだったりするのだが、今回はどこかに立ち寄る余地もないほど近い。

「まあ、朝イチだと空いてそうだしね」

 と自分に言い聞かせながら辿り着いたら、本当に唖然とするほど空いていて感動した。河川敷に用意されただだっ広い駐車場はガラガラで、数えるばかりしか車が停まっていない。

河川敷の駐車場に車を停める。
未舗装で走りにくいが、そのお陰で雰囲気が損なわれていないのがいいと思った。


 橋をめぐる旅を繰り返しているが、今回の錦帯橋はひときわ大物だと身構えていた。知る人ぞ知るレベルの橋ではなく、全国的に名の知られた橋と言っていいだろう。なにせ空港名にもなっているほどだ。要するにメジャー観光地の一種である。

 ところが、いざやってくると拍子抜けするほど空いていたのだ。人が多いスポットは大の苦手だから、手を叩いて喜んだ。空いているというだけでもう30点ぐらいは加点したくなった。

 しかも、駐車場が無料なことにも驚いた。なんとも太っ腹なのだが、橋を渡るのは有料だ。大人310円。往復の料金となっている。ちなみに片道料金の設定はない。付近にはほかに橋はないから、向こう岸まで行ったなら、戻る際にもこの橋を通る必要があるわけだ。

 駐車場が河川敷にあるせいで、車を降りた瞬間にすぐそこに橋の全貌が見える。おおっ〜と思わず声が出た。旅先で目にするものは、第一印象が超重要なのだが、その点錦帯橋は合格といえた。いや、かなり高得点といっていい。

 川の上に、大きく湾曲した半円形が三つ連なっている。さらには、その両端も小さく湾曲した半円形になっている。合わせて五連。橋脚が石積みになっているのも素敵だ。石垣の上に、アーチがちょんと乗っかっている。なんてデザイン性の高い橋なのだろうと驚嘆した。写真に撮っても、絵に描いても絶対映える。

テクテク歩いて、橋の袂に。写真を撮るなら、このアングルが一番いいかも?


 それにしても、真っ直ぐ伸びる橋ではなく、上下にカーブした橋というのはなぜか妙にそそられるものがある。造形美に加えて、渡るときに得られるドキドキ体験が代えがたい。自分にとってはある意味、アミューズメント施設だ。

 ソロリソロリとスローペースで歩を進めた。さっさと渡ってしまうのが、もったいないからだ。ひとつの山を上って下ると、もうひとつの山が現れる。5連アーチだから山は5つもある。

橋の上は段差になっている。注意深く歩いていかないと、つま先がひっかかりそうだ。


 青森の鶴の舞橋も同じく太鼓橋だった。しかし、あちらは三連だったし、アーチとアーチの繋ぎ目に東屋が建てられていたから見た目は全然違う。それに、鶴の舞橋は近年になって作られたものだから、どうしても新しい橋という印象は拭えなかった。

 対して、錦帯橋は歴史が感じられる橋である。建造されたのは1673年。以来、何度か架け替え工事が行われているものの、モダンな雰囲気とは無縁の、時代がかった橋であり続けた。アーチの橋はなめらかな路面ではなく、段差になっている。この点も鶴の舞橋とは異なり、いかにも古い橋ならではといえそうだ。

 背後に山がそびえる周囲の風景もまた橋の美しさを引き立てている。しかも山の頂上には、城郭がそびえ立っている。岩国城である。本当に山の上にどーんと立っていて、これぞ山城とでもいうべき存在感を放っている。お城もまた我が旅における重要テーマなので、一度に橋と城を両方楽しめるのは満足度が高い。

 橋を渡った先は、いわゆる城下町のようなエリアになっていて、武家屋敷などが集まっている。そこを歩いて越えて山の麓まで行くとロープウェーの乗り場が現れる。せっかく来たのだから、山の上にも上ってみることにした。

歩いていて目にとまった立派な建物。
錦雲閣といって、藩主・吉川氏の居館跡に建てられたものと知って納得。


 ちなみに橋の入場料には970円のセット料金というのがあって、ロープウェイの往復とお城の入城券が付いていくる。お城まで行くのならセット券がお得だ。

 山の標高は約200メートル。ロープウェーの乗車時間は約3分だ。山頂駅で降りた後は、お城まで10分ぐらい歩くことになる。

橋を渡った後は、ロープウェイで山の頂上へ。
上から見下ろす錦帯橋も絵になる。


 岩国城は1608年、初代岩国藩主・吉川広家によって建てられた。そんな説明書きを読んで、なるほどと腑に落ちるものがあった。

 吉川広家といえば、関ヶ原の戦いで西軍に属しながらも家康に内通していた武将の一人だ。悪名高い小早川秀秋と並んで、合戦の趨勢に大きな影響を与えた存在である。関ヶ原が1600年だから、1608年に築城ということは天下分け目の合戦における論功行賞の結果、吉川氏が手に入れた城というわけだ。

 いわば裏切りの報酬として得た岩国城なのだが、わずか7年と短命なお城だった。1615年に大坂夏の陣でかつての主君だった豊臣家が滅び、続いて出された一国一城令により破却されることになったからだ。

 現在の天守は1962年に再建されたものだ。山の頂上だけあって、見晴らしがとにかく素晴らしい。眼下に流れる錦川と、そこに架けられた錦帯橋の雄姿が望めた。遥か上空から見下ろす橋という構図もまた格別だ。

ロープウェイを降りた後、ちょっとした山歩きも楽しめる。
岩国城の天守に到着。橋好きであり、城好きでもあるから、それら両方が一度で楽しめるのはありがたいのだ。


(後編へ続く)

第3橋 錦帯橋 後編 2022年3月7日(月)公開予定!



吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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