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第5橋 妙に存在感があるヨーロッパスタイルの橋 旭橋と幣舞橋 後編・幣舞橋 (北海道釧路市)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!

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妙に存在感があるヨーロッパスタイルの橋

 いまのところ、夜景の美しさナンバーワンの橋である。異論は認める。あくまでも現時点での話なので、今後考えが変わることもある。前編で紹介した旭橋に続き、後編では弊舞橋を取り上げたい。同じく北海道三大名橋のひとつだ。
 最初に釧路へ行こうと思ったきっかけは旅ではなかった。一時期、車に家財道具を詰め込んで、一家全員で知らない街に住みに行くという、酔狂な行動を繰り返していた。住むといっても1ヶ月から、長くても3ヶ月ぐらいの「プチ移住」だ。沖縄、京都、福岡、名古屋と移り住んだが、次の候補地が実は釧路だった。
 北海道の中でも、釧路は知る人ぞ知る人気の移住先である。夏は涼しく、冬は北海道の割には雪が少ない。東京や大阪への直行便も飛んでおり、いざとなったらすぐに都市部へ帰れるのも魅力だ。
 街も移住者の受け入れに力を入れており、役場内の専門部署に電話で問い合わせたら、山のように資料を郵送してくれた。居住する物件もほぼ決めて、あとは移住するだけ、という段まで行ったのだが、そのときは諸事情あって移住をとりやめたのだった。
 実際に釧路へ足を運ぶことになったのは、それから数年後のことだ。移住ではなく、2泊3日の小旅行だった。

釧路といえば……湿原が一般的なイメージかもしれない。
せっかく来たからと湿原にも立ち寄ったが、今回もお目当ては「橋」なのだ。


 移住計画まで立てていたぐらいだから、行く前から釧路の地理はだいぶ予習ができていた。地図で見ると一目瞭然だが、街を流れる釧路川を境に東西にエリアが分かれている。それらを繋ぐのが弊舞橋である。
 弊舞橋から目と鼻の先にあるホテルに予約を入れた。できれば橋の近くのホテルに泊まる——橋旅を楽しむ極意のひとつなのだが、弊舞橋は街の中心部の栄えたところにあって周辺にホテルが多いからそれも容易だ。
 行ってみると本当に橋に近くて、ホテルを出るとすぐ目の前が釧路川の遊歩道になっていて、橋の雄姿が望めた。
 長さは124メートル。目立って大きな橋ではない。アーチ形状の旭橋のように造形に際立った特徴があるわけでもない。外観は「ヨーロッパスタイル」だというが、言ってみればどこにでもありそうな普通の橋だ。
 それなのに、妙に存在感がある。なぜだろうかと考えて、ひとつ思い当たったのは橋の成り立ちだ。
 観光客として橋をめぐっていると、見た目の美しさだったり、建築上のギミックのようなものにばかり目がいくが、そもそも橋はインフラだ。旭橋もそうだったが、この橋もまた重要な交通路としての役割を担っている。
 弊舞橋が登場するまでは、川を渡るには船に乗るしかなかった。橋は街の中心部の栄えたところにあると書いたが、逆に橋ができたことでこのあたりが栄えたのだと理解してもいいだろう。そう考えると、橋が周囲の景観の中において主役級の輝きを放つのも自然なことであり、歴史のある橋ほど存在感があることにも納得がいく。

たまたまかもしれないが、歩いて渡っている人は少なかった。


 橋の上には見どころもある。具体的には、欄干に配置された4つのブロンズ像だ。これらは「四季の像」と呼ばれ、春夏秋冬をシンボライズしたもので、それぞれ制作者が異なる。そういえば、ヨーロッパの橋にもこの種の像があるよなぁ。

橋の袂には美川憲一の「釧路の夜」の歌碑もあった。


 幣舞橋鑑賞のハイライトは日没後だ。冒頭で書いた通り、夜景が素晴らしいのだ。ライトアップした橋の光が、川面に映り込んでゆらめく。ロマンチックな美景は恋人と一緒に見るのに最適という感じだが、こちらはあいにく一人旅だ。ちなみに夕陽も綺麗らしいが、残念ながら曇っていた。

橋の後ろの建物に掲げられた「白い恋人」の広告看板もブルーなのがいい。


 旭橋同様、この橋もまた何度も架け替えられている。現在の橋は初代から数えて5代目となるが、竣工したのが昭和51年と聞いたら一気に親近感が湧いた。自分の生まれ年と同じだからだ。いわば同級生、いや、橋にその言い方は不適切か。
 川といっても、幣舞橋がある辺りは河口に近く、釧路港へ通じている。橋の港側の袂には「釧路フィッシャーマンズワーフMOO」なる商業施設があって、土産物屋や飲食店が集まっているが、その名の通り海産物が充実している。

港が近い。岸壁にはテントの中で炉ばたが楽しめる店などもあった。


 橋旅の流れで食事をするならそこでもいいし、ほかにも釧路には「スパカツ」というご当地グルメがある。ミートソース・スパゲティにとんかつを乗せたもの。発祥の店とされる「レストラン泉屋 総本店」は弊舞橋から徒歩数分の距離だ。
 似たような料理として、長崎のトルコライスを思い出すが、こちらはライスは付いていない。熱した鉄板で出されるのは、寒い北海道ならではの気配りだろうか。アツアツのスパカツをフハフハ言いながら完食した。



吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。

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