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【新刊案内】自転車お宝ラーメン紀行(試し読み)

心も体もあたたまる“懐かし旨い”一杯


寒さも本格化してきました。温かい食べ物が恋しくなってきますね。そんなときは『自転車お宝ラーメン紀行』(12月15日発売)がおすすめです。旅行エッセイスト石田ゆうすけさんが自転車で東京を巡り出会った、心も体もあたたまる“懐かし旨い“一杯を紹介する1冊です。

本書の発売を記念して試し読み「はじめに(一部抜粋)」を公開します。



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<はじめに>

 旨いと評判のラーメン店に、友人とふたりで食べにいったときのことだ。

 混雑する時間帯でもないのに人が並んでいた。30分ほど外で並んでようやく店に入り、さらに20分ほど待ってやっと着席。粛々とラーメンを食べたあと、店を出て互いに顔を見合わせ、苦笑した。

「やっぱりこれ系かぁ」

「思ったとおりだわ」

 高級食材をスープに使っていることで知られる店だった。複雑で旨味たっぷりのスープにコシの強い麵は、いかにも一発当ててやろうといった、何かみなぎるものが感じられ、食べていて少々疲れた。

「足し算のラーメンなんですよ」

 友人がそう言ったとき、「ああ、なるほど」と妙に納得がいった。

 彼は老舗ラーメン店の三代目だ。昔ながらの店の味を守り、鶏だけでスープをとる。

 そのラーメンは澄みきっていて、スープは最後の一滴まで旨い。毎日食べても飽きない。これはすごいことだと思う。そのラーメンが僕の〝基準〞のようなものになっている。どのラーメンを食べてもつい比較してしまう。超えるラーメンは、なかなか現れない。

 もちろん好みの問題だけれど、最近の主張の激しいラーメンが僕はちょっと苦手だ。これでもか、これでもか、と旨味を足していった〝足し算〞のスープは、コッテリ系、端麗系にかかわらず、よっぽどバランスがよければ別だが、「おいしい!」と感動するのは最初だけで、食べているうちに結構な割合で飽きる。丼一杯食べると疲れてしまう。ものには程がある。ラーメンという料理にも適した按排があるように思う。
 最近のラーメンは、やりすぎなのだ。

 そこへいくと、昔ながらのラーメンはインパクトや派手さはないけれど、最後までおいしく食べられる。

 そんなわけで、都内の昔ながらの中華そばを自転車で巡る話だ。

 旅先で食べるなら、なおさら古い店がいい。味と一緒に旅情がじわじわ染み入ってくる。ただ旨いものを食べるだけじゃなく、食べている〝時間〞も味わいたい。

 東京には昭和風情の古い店がたくさんある。目についた店にふらりと入り、食べてみて、

「ああ、なるほど、だから残ってきたんだな」とひとり合点する。

 そういった〝昭和店〞たちが、ここへ来て、すごいスピードでなくなっている。高度成長期から50〜60年、店主の高齢化に後継者不足、そして店舗の老朽化。店をたたむ理由は山積している。淘汰は自然の定めかもしれないけれど、消える前に昭和のラーメンと郷愁を体に刻んでおきたい。――


<目次>

はじめに
1章 終戦直後で止まった店と、ガード下の秘密基地――永代橋〜浅草橋
2章 噺家はだしの店主と、昭和遺産店――笹塚
3章 商店街に最後まで残った店――雑司が谷
4章 レトロな街で「七面鳥」を追いかけた――高円寺
5章 鬼子母神とバラと矢吹丈――三ノ輪
6章 壊したら、元には戻りません――豪徳寺
7章 味噌ラーメンが東京で歩いた道――人形町
8章 大きな商店街で生きてきた――長崎
9章 ラーメンは地球を救う?――新宿
あとがきにかえて、ラストトリップ――大崎


<著者紹介>

石田ゆうすけ(いしだ・ゆうすけ)
1969年和歌山県生まれ。旅行エッセイスト。大学卒業後、自転車で世界一周を達成し、その体験を綴った初の著書『行かずに死ねるか!』(実業之日本社)がベストセラーに。世界一周自転車ひとり旅シリーズの3部作は中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、国内外で累計30万部を超える。現在は旅、自転車、食を中心に執筆活動を行なっている。著作はほかに『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)『大事なことは自転車が教えてくれた: 旅、冒険、出会い、そしてハプニング!』(小学館)など。