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4. 誰かの育ったまち。

実家に帰ると、あかちゃんになっちゃう。
ご飯どころかお菓子もどんどん出てくるし
あったかいお布団も出してもらえるし。

いや、そんなことじゃなくて
もうほんといろんな我慢を全部捨てる。
どもーって帰ってきて、どかっと座って
ぐずぐす、いえーい、へへ、って感じ。



だから東京に戻る時、わたしは新幹線の中で
ちょっとずつ26歳の大人に戻らなきゃいけない。


こだましか停まらない最寄りの駅には
いつもホームに5人くらいしか人がいなくて
ピーン、ポーン、ってチャイム音だけが響いてる。

ものすごいスピードで通り過ぎる
のぞみとかひかりの爆風にあおられながら、
やっときたスカスカのこだまに乗る。
なんとなく、富士山が見れたら嬉しいから、
いつも2人席が空いてるところに座る。

贅沢旅気分を味わおうと買ったスタバは
もう半分溶けてたりする。


窓から外を見てる。ずーっと。
町が田んぼになり、また町になり山になり。

きっと誰が、田舎だなぁと思ってるこの町は
誰が育った場所なんだよな。
そこに家族がいて友達がいて、青春があるんだ。

ああ、さみしいな。
すごいスピードで電車が進んで
すごいスピードで東京が近づいてる。
どんどん大人にならなきゃ、間に合わない。
あと2時間、いやあと1時間か。

身を投げ出せるような圧倒的な愛情から
どんどん、どんどん遠くへ行ってる。

自分はもう一人。
一人だけだ。



よし、なんてことない。いいぞ。
夜なのにビカビカに光ってるこの街でも
そこを歩くあの人たちにも
たぶん大事な人がいるんだよな。

私もその街を歩ける立派な社会人だ。
明日の仕事の予定、見ておこう。

東京駅に着いて、ほんのちょっとだけ
喉の奥に鼻水をツンと感じながら、
スッと立ってリュック背負って
一歩も迷わずに丸の内線に向かって歩く。

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