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60. 夏休み、終わり。

お盆が終わっちゃう。私の1週間ばかりの夏休み。

お盆のはじまりに、おばあちゃんの家に行った。いつも通り買っていったお弁当(うなぎ)をみんなで食べて、おしゃべりした。私がこの前初めてモモを剥いて大失敗した話をしたら、おばあちゃんが、今うちにあるから剥いてみたら、ってでっかいモモを出してくれた。
お兄ちゃんと、あーでもないこーでもないとスマホで調べながら、狭い台所で右往左往する。ぐつぐつ鍋にお湯を沸かして、こっちでは氷水を用意して。あまりにモモがでかいのでお玉で何度もお湯をすくってモモにかける。結局皮はつるんっと剥けて大盛り上がりしたけど、そこからタネ取りにまた大苦戦した。モモのタネって、あんなにびっちりくっついてるのね。
ご飯を食べ終わった後、少しだけお兄ちゃんと近くを散歩した。神社ででかい虫の羽音にビビったり、田んぼの淵で地団駄を踏んでおたまじゃくしがいないか探したりした。稲や側溝にたくさんついてたどピンクのもこもこは、ジャンボタニシのたまごらしい。自然のものとは思えない色だった。


地元で何人か人と会う約束をしてたけど、家に着いたら熱を出した。どうも喉が痛いとは思ってたけど、思いの外しっかり風邪をひいた。
それからずっと、お布団にいた。何日もお布団でごろごろした。たくさんうどん食べてプリン食べて、時々熱を測ってはまたごろごろして、とにかくたくさん寝た。

あんなに甘やかされたのは久しぶりだった。ほんとうに、何にもしなかった。私が過ごしやすく整えられた場所で、私だけの家族に、愛され、大切にされた。



今日、東京に戻ってきた。

さみしい。全部置いてきちゃったみたい。
東京には、私だけの誰か、は誰もいなくて、本当にひとりぼっちって気持ちになる。
悲しくたってお腹は空く、なんて言葉を聞くけど、私はそんなこと、思ったことない。ちょっとでも悲しくなると何にも食べたくなくなる。何にも要らなくなる。むしろ、どうにも食べる気にならないなというところから、自分はいま悲しいのかもと気がつくことさえある。
慎重に、慎重に、スーパーの棚から食べられそうなものを探すけれど、今日はだめだ。何も要らない。さみしい、でお腹いっぱいです。固形物は食べられそうにないから、とりあえずスープを買う。気が向いたら食べよう。


もう夏休みは終わったんだ。だったら早く、夏も終わればいい。さっさと秋になって、季節ごと、さみしい空気を連れて来てくれればいい。そしたら私はひとりぼっちで取り残されたような気持ちにならなくて済むから。そう思いながら、色褪せた緑の木々を見上げて歩いた。

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