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商売繁盛に向けた「ものづくり改善」(その4) 付加価値生産性を高めるということ

商売繁盛に向けた「ものづくり改善」(その1) (その2) (その3)の続編です。
(その3)まで、「生産性」という言葉を何気なく使ってましたが「物的生産性」を指していました。

(その3)の事例では
従来1000個/人が、改善により1500個/人に向上
としましたが、ここでの生産性とは「物的生産性」のことでした。

これは現場改善の成果ですが、改善の成果が売上利益にどう貢献するかは、この製品が幾らで販売されるかを考慮する必要があります。

付加価値生産性について

「物的生産性」と合わせ、「付加価値生産性」という指標も重要です。

ここでも藤本隆宏氏の解説動画を紹介します。

付加価値生産性と物的生産性を混同していませんか? - YouTube
(出典:一般社団法人ものづくり改善ネットワーク 付加価値生産性と物的生産性を混同していませんか?)

藤本隆宏氏によると付加価値生産性は以下のように示されます。 
付加価値生産性(円/人・時)
=付加価値(円)/雇用量(人・時)
=製品当たりの付加価値(円/製品)×物的生産性(製品/人・時)

仮に、物的生産性を1.5倍に向上させたとしても、販売単価を従来比2/3で売ってしまえば(すなわち製品当たり付加価値が2/3になってしまえば)、付加価値生産性は変わらずです。

製品当たり付加価値

製品当たり付加価値の向上ですが、その昔、特に1990年代頃からは、中国が低賃金を武器に製造してきたことで難しい時期が続きました。
この為、日本のものづくりとしては生き残りを掛け現場改善を必死になってやってきたいう側面があります。
そのような経緯を経て現在でも生き残っている分野では、物的生産性という指数で見た時に、実は凄まじい向上を成し遂げています。

海外製との価格競争で製品当たりの付加価値が下落していった中、物的生産性を大幅に向上させることで、付加価値生産性をなんとか保ってきたということです。

このことをあまり理解せずに、「この20~30年間、日本の製造業は駄目になっている」と言われることがあります。海外製との価格競争の中で製品価格を下げざるを得なかったことを考慮せず、付加価値生産性のみを取り上げて、”大した成果が上ってない”と見なされてしまったということです。

日本のものづくりにチャンスがやって来る

中国の賃金は高騰してきています。以前のようなハンディは解消しつつあります。

ここでも藤本隆宏氏の言葉を引用します。
「日本の製造業の物的生産性は非常に高い」
「大事なことはものづくり改善と商売改善を同時にやること」
「潮目は変わりつつあります。新興国の賃金高騰で日本との賃金差が縮小しつつある今、能力構築を続けてきた優良現場が次の20年に生き残れる可能性は、過去20年に比べれば、ずっと高まるはずです。地域全体で協力して生産性を高め、私たちの子供たちの生活水準を高めていくチャンスが来ています。」
出典 https://www.mkn.or.jp/company.html

製品当たりの付加価値を上げるのは誰の役割?

では、製品当たりの付加価値を上げるのは企業内では誰の役割でしょうか?
工場側からは「それは企画・営業の仕事」、「全体は経営者が見ること」という声が聞こえてきそうです。そして「だから、工場側は関係無い」と。

製品当たり付加価値(=販売価格)は、市場・顧客・競合との関係上、企業側で思うようには設定出来ません。ものづくりを担う工場にとって、市場・顧客・競合のことは管轄外という気持ちになりがちです。

私は、工場でものづくりに携わる方が、製品当たりの付加価値を上げることに関心を寄せ、行動することに大いに意義があると考えてます。

実際にどうやるかですが、きっかけの一つは、工場でものづくりに携わる方が、ユーザーの現場に出向いてみることです。直接の取引先である1次顧客でなく、対象製品が使われている現場にです。そこにはユーザーニーズ・困り事が潜んでいるものです。
ものづくりに携わる方が、企画・営業とは別の視点で、ユーザーの現場を見ることは極めて有用と思ってます。

このメリットは3つあります。
・企画・営業部門とは違う感性・観点での気付きが得られる
・解決に繋げるアイデアを具体的に提示できることがある
・企画・営業から言われてやるのとは違い、自分事として主体的に取り組む姿勢となりやすい

次の商品企画のヒントが得られるかもしれません。既存製品であっても付加価値の向上に繋げられるアイデアを思いつくことがあるかもしれません。

物的生産性向上で、付加価値を高めるためのヒント

一般論として、他社と差別化できるような品質や機能を有していれば、高価格で販売できるのは理解できる。ただ、下請け企業である自社では、発注元の図面に従って生産しているだけで、差別化なんて出来ない。
発注元の指示通りにこなすだけで、あとはコストダウン要求にどう応えるかで・・・・・

こんな声が、企画・設計・開発機能を有しない所謂下請け企業から、しばしば聞かれます。
付加価値を向上させるには、下請けからの脱却が唯一の道なのでしょうか?

下請けでも、工場側の立場で「製品当たり付加価値」を高めるためのヒントがあります。

品質の目標レベルは基本発注元からの指示に従って狙います。これに対し過剰で闇雲な高品質は評価されないばかりかコストを上げるだけです。
ヒントの一つは品質の「高さ」でなく「安定性」です。「不良の少なさ」であり「ユーザーが安心して安定に使えること」に価値があります。
「そんなことは無い。不良は無いのが当たり前で当たり前のことに価値を見出し高単価で販売することなんて出来ない」と思われるかもしれません。
営業担当が顧客の調達窓口に正面から「不良率はどのくらいまでなら許容できますか?」と聞くことははばかられます。「不良は無いのが当然」とされるのが関の山です。
ただし実際には(分野にもよりますが汎用的な工業製品であれば)不良ゼロとは行かず、従って品質の安定性に価値があります。
工場でものづくりに携わる方が、相手側の現場に出向き現場の声を拾ってくる機会があれば、先方が求める安定性の度合いを窺い知ることが出来るかもしれません。競合の不良率を知ることは難しいかもしれませんが、競合に対し抜きん出た「品質の安定性」があれば、それは付加価値であり製品当たり付加価値(=販売価格)のアップに貢献できる可能性は大いにありましょう。
顧客と価格交渉するのは営業かもしれませんが、相手側の現場の声を拾い、品質の安定化に自ら乗り出すということが工場側として出来れば、これは素晴らしいことです。

もう一つは、納期です。生産リードタイム短縮を武器とした顧客への納期対応は強力な武器に成り得ます。顧客からの表面的な要求納期が真の希望納期とは限りません。
更には、フレキシブルな生産体制構築による多様性への対応は、今後ますます価値が上がってきます。(この辺りは、(その2)「製造ー営業 連携」を参照ください)

更には、環境負荷がより少ない生産体制にもポイントが高まって来ます。資材調達の際、環境対応面は重要度が増してきます。
目に見える形での環境負荷低減活動だけでなく、生産性向上の活動それ自体が環境負荷の低減にも繋がります。生産性向上活動はムダの発見と削減の繰り返しですが、ムダ取りが進めば結果的に環境負荷低減に繋がり、これが顧客から価値として評価されることになってくるでしょう。

顧客との価格交渉窓口は営業部門であっても、下請け仕事であっても、工場側として物的生産性向上の活動を進める中で、製品当たり付加価値を高めるためのヒントはたくさんあります。

工場側は物的生産性の向上に努めるのは当然です。
それだけでなく、製品当たりの付加価値を上げることにも工場側は関心を寄せ行動してみてください。
ものづくりに携わる方ならではの視点とアイデアを活かし、当事者意識を持って付加価値生産性向上にも取り組むことは、企業の力となります。
経営者はそのことを十分に承知の上で全体推進することが大切なのは言うまでもありません。

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