中小製造業での現場カイゼン活動 ーその前にー(2)
中小製造業での現場カイゼン活動 ーその前にー(1)からの続きです。
手法・ツールの活用の前に、従業員の気持ち、モチベーションが大切。それが醸成されてないと、どんな優れた手法・ツールでも活用の前に頓挫、挫折してしまう、ということを(1)で述べました。
従業員が自然とやる気を出し良い方向に動きだす土壌があって、その上で適切に手法・ツールを活用した活動は、絶大な効果が期待できます。
では、そのような土壌はどのように作ったらよいでしょうか。
現場リーダーがカイゼンの推進役
製造業では、現場で働く方を束ねる現場リーダー的な役回りの方が任命されています。会社の組織を図で表した場合、経営トップを左側に記載した時に、最も右側の組織の長になります。(ここでは現場リーダーと呼ぶことにします。)
この方こそがカイゼン活動の推進役として重要です。
工場長、製造部(課)長と言われている方が現場リーダー役を担っている場合もあれば、その役職の下に班(チーム)があり、この班(チーム)の長(リーダー)が現場リーダーになっている場合もあります。企業規模により組織は多層化していますが、現場従業員の直ぐ上に居て、一人一人と直に接している方になります。
実務を担当しながら班長(チームリーダー)を兼務するという、いわゆるプレイングマネージャーもありがちです。
現場リーダーは、現場従業員一人一人の考えや行動、更にはその日の様子までうかがい知ることができる立場にあります。従業員の気持ち、モチベーションにはこの現場リーダーが極めて大きな影響を持ち、カイゼンの推進にも関係します。
この人達が本当に変わろうという意志を持って行動することで、現場は変わることができます。
逆に現場リーダーが現状維持で良しと思っていたら、下の者もそれに染まってしまい、進みません。このようなリーダーと会話してみると、「やりたくない」「やってもムダ」という意識が強いようです。
今までやってきて流れも判っている業務を、変えたくない。
成果が出せるかどうか判らないことをやるのが不安。(現業務は、どうすればどうなるか経験的に読めるが、カイゼン活動は経験無い)
今さら新しいことをやるのは面倒。
そんな言葉が返って来ます。
このような意識になってしまうのは、現場リーダーの要因が大きいのでしょうか?
現場リーダーを活かすも活かさないも経営者次第
「やりたくない」「やってもムダ」という意識を持った現場リーダーに本音を聞く機会があります。
ほとんどの方は真面目に仕事に取り組んでいる方です。丁寧に耳を傾けてみますと、現実的には、“今日のやる事”に没頭してしまい、“明日の仕事(今日やらなくとも直ぐには困らない仕事)”であるカイゼン活動に手も頭も回らない状態に陥っているのだと感じました。
更には、そもそもリーダーとなるにあっての研修やマネジメントの心得のような教育(OJT、OFF-JTに関わらず)もあまり受けて来なかった、社外を見るとか、市場や顧客、更には競合を意識するということも言われてもこなかった。ということもあるようです。
(研修や教育の在り方については、ここでは触れませんが)
ではどうしたら現場リーダーが前向きにカイゼン活動に取り組み、チームメンバーをリードしカイゼン活動が進むのでしょうか?
先ずは、自分達の工場を将来こうしたいといったビジョンを経営者自らが現場リーダーに分かり易い言葉で示すことです。
それから、経営者の責任で、現場リーダーにカイゼン活動の時間と権限を与えることが必要です。
そしてカイゼン活動を評価することです。
この3点です。
現場リーダーには生産納期が課されてます。時に営業部門から強い圧力が掛けられます。「顧客へ納期必達で届けなければならないから」と。そうなると現場リーダーは、“今日のやる事”に没頭せざるを得なく、“明日の仕事”に手が回らなくなります。
この際、品質や安全は確保して当たり前。製造コストについては、製造方法は自分達が設定した訳でなく、調達コストも自分達の管轄外、というのが現場リーダーの認識としてありがちです。
となると現場リーダーのアウトプットとしては「計画納期に対しての出来高」ぐらいしかなくなってしまいます。
経営者は、現場リーダーにカイゼン活動に向かわせるための時間確保を行うとともに、アウトプットとしてカイゼン活動を確実に評価することが必要です。
ただし、アウトプットとして、生産性(時間当たり出来高量)向上、コストダウン、リードタイム短縮、不良率低減・・・・という指標をいきなり求めても出来ません。
これらはカイゼン活動の結果もたらされるものであって、「(業績に直結する)結果を直ぐ出せ」と迫っても、現場リーダーにはやり方が判りません。
経営者/現場リーダー/外部指導者の連携
大手製造業ではカイゼン活動で成果を上げることがトップ方針として当然あり、各事業部・部署ではそれを遂行するために、手法・ツールを研究し学びながら実行していく進め方を行います。カイゼン活動を推進する専門部署を設けている企業もあります。
これに対し、中小製造業では手法・ツールの習得や活用に関し、社内ではなかなか対応できず、外部にアドバイスを求めながら進めることはよくることです。
外部指導者の導入は、中小製造業ではほとんどが経営者の発案です。自社の生産性向上を図りたいとの思いを経営者が持ち、でも具体的にどう進めて良いかが判らず、外部にアドバイスを求めるというケースです。
現場マネージャーもしくはリーダーから、「自分達ではやり方が判らないので、外部の指導を受けたい」と経営者に進言するのは稀です。
経営者ですが、手法・ツールに長けている指導者を外部から連れて来るのは良いのですが、「さー、やって下さい。後はお任せしますので」としてしまうのはマズイと、前編(1)で述べました。
これは外部指導者のマネジメント資質に起因する弊害もありますが、現場リーダーと外部指導者との関係性も重要になってきます。
外部指導者は現場の生産性向上を図るべく、手法・ツールを使っての活動を促します。この際、外部指導者が実際にやり取りするのは現場リーダーがメインになります。
これに対し、現場リーダーにカイゼン活動の時間と権限が与えられていなければ・・・・・
外部指導者は経営者からの要請で進めています。一方の現場リーダーは“今日のやる事”で手一杯で・・・・・
上手く進まないのは当然です。
ここはやはり経営者の裁量になります。
現場リーダーには、“今日のやる事”とは別に“明日の仕事”のための時間を確保出来るようにし、権限も付与します。
時間と権限が現場リーダーに与えられるということは、アウトプットする責任も負うということです。ここを曖昧にしておくと、“今日のやる事”でいっぱいであったのでカイゼンが進められなかった、という言い訳に繋がりかねません。
(規模の大きな企業では、カイゼン推進者を専任化することもあります。集中させることで専門性を高められるというだけでなく、他のことに時間を使うという逃げ道を絶つことにもなります。)
また、経営者は自分達の工場を将来こうしたいといったビジョンを常日頃から考え、現場リーダーに分かり易い言葉で示しておくことが大切です。
現場カイゼンの対象や目指す方向は企業の置かれている状況と経営方針で変わります。
市場は常に動いています。それに伴い製品・サービスも多様化してきています。
多品種少量生産力を高めたいのか、競合に対しコスト競争力を高めたいのか、生産リードタイムタイムを短縮して顧客ニーズに素早く応えたいのか、はたまた市場クレームを減らしたいのか・・・・・。
経営者としてどうしたいかを考え、ビジョンを現場リーダーに分かり易く示すことが肝要です。
手法・ツールの細部は専門家(外部指導者)に任せ、現場での活動は現場リーダーに時間と権限を与えた上で任せ、経営者としてやるべきをやる。
経営者/現場リーダー/外部指導者の連携が重要です。
会話をオープンにすることで、人と人をつなぎ、同じ方向に向かってスピーディに動くことができるようになります。このような状態が出来れは、結果は必ずついてきます。
おまけ
私の地元静岡県には、公益財団法人 静岡県産業振興財団という組織があります。ここに「現場改善インストラクター派遣」という制度があります。「生産性向上推進リーダー育成スクール」というセミナーも開講しています。
外部指導者の招聘や現場リーダーの育成に役立つのではないでしょうか。
静岡県以外にもこのような制度は各地域にあると思います。
有効に活用しない手はありません。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
以上です。
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