シャアは極左:2

前回の続き。

「ウチがミス・ジオンになるんね」

そもそも、機動戦士ガンダムは、父を暗殺されたシャアの復讐劇なんだ。

本名はキャスバル・レム・ダイクン。掃除機みたいな強そうな名前だ。

キャスバルはまずは偽の戸籍、つまりシャア・アズナブルに成りすまして、士官学校に入学する。そこでザビ家4男のガルマに近づき、親友となってザビ家の知己を得る。他人になりすまして権力者と仲良くなる?果たしてそんな事が?まあアニメだからね。何でもありだ。

この時代、ジオン公国は「アヤ付けられたら、かましちゃれい」とばかりに地球連邦にケンカを売っており、戦争の真っ只中だった。シャアは自分の正体がバレないように変なお面をかぶって武勲を重ね、異例の出世を遂げる。そしてザビ家の息子ってだけで大佐のイスを貰ったガルマと、階級の上では肩を並べるまでになった。まだ20歳なのに?まあアニメだからね。そして、戦局では親友のガルマを土壇場で裏切り、間接的に殺害している。この時点でシャアに確たる思想はないように見える。単なるアヴェンジャー(復讐者)だね。ジオニズムなど、不遇な人々の負け惜しみだと思っていたんじゃないかな。

ところが、シャアは1人の少女と出会ってしまう。ララァ・スンだ。彼女の「人の気持ちを察する」能力や精神性を見たシャアは彼女をニュータイプだと確信するんだ。ただ単に一目ぼれして色ボケしたという見方もあるけれど、それはまあいいじゃないか。この時からシャアは父ジオンが提唱していたニュータイプによる人類の革新、時代の変革が本当に可能かもしれない。いや、その革命を起こさなければならないと思うようになる。

ジオニズムはニュータイプありきの思想なので、ニュータイプが現れた時点で「こうなりゃ五寸じゃけん」と思うのは当然の事だと思う。ただ、まだこの時点でのシャアは大佐とは言え雇われの一軍人であり、思想活動家ではない。シャアはララァをまずは軍人として育てることにした。傍に置いておきたいからね。折しもニュータイプ研究を進めていたジオン軍、ニュータイプにしか使えない兵器を開発していたのだ!何たる偶然!この辺がご都合主義…いや、抜け目ないザビ家といった所だね。ララァはシャアの良きパートナーとして、また、それ以上の存在として戦場を共にする事になる。

シャアが最初に見つけたニュータイプが男であったら、ガンダムはこれ以上拗れる事はなかったんじゃないかと思う。シャアはララァを一人の女性として愛してしまうんだね。後に、これが思想家としての致命的な欠点となる。

さてニュータイプ少女であるララァは、ある日、ガンダムを操縦する少年アムロと邂逅する事になる。そして、彼らはニュータイプとして言葉を交わさずとも深く共感してしまうんだ。その時、シャアは何してたと思う?完全に蚊帳の外だった。無念。惚れた女が親父にも殴られたことがない15のクソガキと…。まあシャアも20歳なんだけどね。なんだロリコンか。しかし、その共感こそ恋人としての愛情よりもシャアが真に欲していたものだったかもしれない。嫉妬心に体を焼かれる思いだったんじゃないかな。

そして、戦いの中でシャアはララァを失ってしまう。殺害したのはアムロだ。彼はアースノイド(厳密には違う)でありながら、軍人ではなく不条理な形で戦争に参加させられ、しかも行くところが常に最前線という「大凶」生活を強いられた最も不幸な少年の一人だった。なまじ親父がガンダムの開発者で自分もロボットオタクだったもんでガンダムを「動かせた」んだけど、ぶっちゃけそれだけでエースパイロット扱いだ。戦局をド素人の少年に委ねる地球連邦軍、マジ鬼畜。そして、そんな宇宙を股に掛けた戦いの中で自らの可能性、つまりニュータイプ能力を開花させたんだね。

「エゥーゴは芋かもしれんが地球連邦軍の風下に立ったことは一遍もないんでっ」

結局、戦争はジオン公国の敗北に終わった。ガンダム大活躍。何故か?アニメの主人公だからさ。プラモデル売れないからね。活躍しないと。そしてシャアはザビ家に対する復讐を遂げ、表舞台から姿を消した。最初からそのつもりだったって事だ。よくそのお面バレなかったな、と思いきやバレてはいたみたいだけど。それを承知で利用していたザビ家長女のキシリアをバズーカ砲で吹っ飛ばしてる。これにてシャアの復讐劇はおしまいとなったって訳だ。

アムロ少年はこの戦争のヒーローとなった、にも関わらず、ニュータイプであるが故に地球連邦軍から危険視され、僻地に幽閉されてしまう。ニュータイプが本当に現れたことで、地球連邦軍の上層部もジオニズムを無視できなくなった証左だね。彼らにしてみれば人類の革新・革命などもってのほかなんだ。どこまでも哀れなアムロ。因みに小説版では名もなきドムに撃墜されて死ぬ。

一方、復讐を果たしたシャアは暫く潜伏期間に入ることになる。思想家として動き出すのはこの頃からだと思われる。ララァとアムロの出来事から、彼は自分自身がニュータイプではないと思っていたかもしれない。或いは、ニュータイプ的資質がありながらその能力は彼らに大きく劣っていると。だから、自ら「裏方」に徹することで、新たなニュータイプによる人類の革新を目指すことにした。まさに潜伏期。

戦争から7年後、クワトロと名を変えたシャアは、地球連邦軍の将官ブレックスを担ぎエウーゴを結成する。「反地球連邦軍・エウーゴ」。ちょっとややこしいけど、この組織は地球連邦軍・旧ジオン軍の垣根を越えた組織なんだ。各軍の右派と左派、マイノリティ同士が手を組んだと言ってもいいね。しかしながら、地球連邦軍の非公式な軍隊でもあったと。この辺のごちゃっとした感じ、いわゆるメーカーの利権とか経済の話も絡んで事情が複雑になるので省略する。兵器を売ることで儲かる「死の商人」の暗躍が影響しているよ!これはまあ、現実世界でも同じっぽい。なぜ戦争をするんだい?儲かるからさ。事実、エウーゴも地球連邦軍もアナハイム社の作ったモビルスーツで戦闘を行っている。

クワトロの正体がシャアであることは早くから身内にバレバレだったんだけど、彼にとってそんな事はお構いなしだった。「自分は表に立たない」という意思表示だったからね。そして、カミーユ・ビダンというニュータイプの素質を持つ少年との出会いによって、自らの革命を成就させようと奔走する事になる。そこには、理想に燃える純粋な革命家としてのシャアと、いまひとつ煮え切らないシャアの姿があった。

(続く)


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