アメリカ帰りプロデューサー・ユキコの2024年 第58回スーパーボウル CM批評9選
こんにちは。monopo Tokyoというクリエイティブエージェンシーでプロデューサーをやっている、ユキコです。以前noteに掲載された私のインタビュー記事「アメリカ帰りの25歳が実践するグローバルミックスキャリア論」がちょっとバズって嬉しかったです。その節はありがとうございました。
アメリカといえば、昨日(2024年2月11日、日本時間12日)はアメリカの国民的一大イベント「スーパーボウル」が行われましたね。カンザス州チーフスの2年連続優勝や、青春時代を思い出させるアッシャーのハーフタイムショー、必要以上に話題になるテイラー・スウィフトの観戦の様子がソーシャルメディアを掻き立てる中、私がこのイベントで一番楽しみにするのは、中継中に放映されるCMです。
代理店出身の父のもとに生まれ、小さい頃からスーパーボウル = “広告の祭典”という知識を植え付けられて育ち、大学時代をアメリカで過ごした私だからこそ(?)できる、スーパーボウル広告解説を、会社のnoteを乗っ取って勝手に開催します。エージェンシーの視点と、アメリカのカルチャーバックグラウンドの解説を織り交ぜながら、英語やUS POPカルチャーがわからない人にもわかりやすく紹介するつもりです。
スーパーボウルとは?
スーパーボウルとは、米国のプロアメリカンフットボールリーグの優勝決定戦。アメリカンフットボールの最高の大会であり、アメリカ合衆国最大のスポーツイベント。(出典: Wikipedia)
なぜ広告の祭典?
全米各地の人々が画面を通して見るのは試合だけではない。1億1,300万人が視聴すると言われるTV中継は、スポンサー各社にとっては最高の機会。各ブランドや広告関連会社が、いかに魅力的なCMを生み出すかを競う“マーケティングの祭典”としての側面も持っているのだ。(出典: 日経クロス)
Super Bowl中継中に放映される広告は俗に"Big game spot"と呼ばれる。
1枠(30秒)の購入費は?
7 million USD = 約10億4千万とのこと。(出典: Statista)
日本の2022年総広告費が7兆円(出典: 電通ウェブサイト)ということで、規模感イメージしていただけたでしょうか。
それでは、私が勝手に作った部門ごとに、厳選した作品を批評していきます!
2024年 第58回スーパーボウル CM批評 by ユキコ
<コメディー部門優勝>
CeraVe - "CeraVe with Michael Cera...Ve"
CeraVe(セラヴィ)は、街のスーパーや薬屋さんに静かに並ぶ、ごく普通の皮膚科医監修保湿クリーム。そのCMはまるでハイブランドの香水のCMかのような世界観で始まる。登場するのは映画『スーパーバッド』や、昨年の大ヒット映画『バービー』の”アラン”役 (唯一Kenじゃない男性人形)で有名な、大物コメディ俳優マイケル・セラ。名字の「セラ」と、商品名の「セラ」をかけて出来上がったのは違和感しかないCMだった。
監督したのはPRETTYBIRD所属のTim & Eric. きっとブリーフは「皮膚科監修保湿クリームというだけの印象を持たれているのが課題で、印象的で記憶に残る広告を打ちたい。」くらいのシンプルなものだったんだろう。ラグジュアリーファッションブランドのナルシストな広告を真似たような演出は、 コメディアンでもあるこの監督たち2人から生まれた、と思うと納得がいく。
コメディー広告が多いスーパーボウルCMだが、私的にこれがダントツ優勝だった。評価ポイントをまとめると、
<メッセージ部門優勝>
BMW - "Talkin' Like Walken"
新型のEV『i5』をフィーチャーしたCM。
映画『ディアハンター』や『キャッチミーイフユーキャン』で有名なハリウッドスター、クリストファー・ウォーケンが出演するこのCMは『Talkin’ Like Walken(トーキンライクウォーケン)』と題され、ウォーケンが日常で出くわす人々に彼の独特な声と話し方を真似される。次第にウォーケンはイライラを募らせていき、”There’s only one Christopher Walken, and only one ultimate driving machine. The rest are just imitations.”というコピーが(口調を真似しながら)入る。「誰にも完コピできない、唯一無二の車」というコンセプトを、自分を真似しようとする人々を嘲笑うウォーケンと重ねた、スマートなCM。
途中のアッシャーのカメオは不必要にも思えるが、このCMがスーパーボウル当日よりちょい前に公開されたということを踏まえると、Big game dayへのワクワクに拍車をかける粋な演出なのかもしれない。
初見の際には知らなかったのだが、この記事を書く上でディグったところ、このスポットを監督したのはBryan Buckley、スーパーボウル常連の監督でした。この作品で彼が監督したスーパーボウル広告は64本目とのこと。(Mr. Beastのカメオで話題を呼んだ昨年のNFL “Run With It”も彼のワーク。)
彼がスーパーボウル広告制作のイロハを語る動画はこちら。
CMの面白さよりも、コアアイデアのクレバーさが際立つこの作品の評価ポイントはこちら。
<時代を感じる部門優勝>
Microsoft - Copilot: Your everyday AI companion
OpenAIのGPT-4をベースにしたLarge Language ModelをOfficeアプリケーションに組み込み、生産性の向上や業務効率化をするためのツール「Copilot」のCM。新しいことをやりたいがハードルに直面し、諦めかけている人たちが、Copilotのおかげで夢を叶えられる、というストーリー。
Nikeの広告だと言ってもおかしくないストーリー構成と、著作権フリー音楽ライブラリにありそうな音楽のおかげで、「もしかしてこの動画自体もAIにつくらせたんじゃ?」と思わせられる出来。
コメント欄も賛否両論。「AIの偉大な力を1億人の前で魅力的に見せて、さすがMicrosoft!」といった声もあれば、「『君には無理だ』と言われても、夢を諦めようとせずに『見てろ!』と言ってAIに頼るなんてチートだ」という人も。あなたはどっち派?
<時代を感じる部門2位>
Poppi - "The Future of Soda is Now"
"The Future of Soda is Now. " 未来のソーダはもうここに。といったようなタイトルのこのCMは、従来の”ソーダ”(糖度の高い炭酸飲料)よりも糖度やカロリーが低く、化学調味料を使わない、プレバイオティクスを多く含んだ炭酸飲料”Poppi”のキャンペーン。
フィルムルック、80sシンセのBGM、スプリットスクリーンアニメーション、カジュアルトーンナレーション、コインランドリー etc…あらゆる“Gen-Zトンマナ”を詰め込んだクリエイティブは、若い世代へ語りかけたい感がものすごい。ウェブサイトもグリッド状デザインで、かわいい。
「今この瞬間、ソーダの概念が変わる」という力強いコピーでアテンションを掴むこのCMは、長年ハーフタイムショーのスポンサーをしていたペプシやスーパーボウル広告に常連のコカ・コーラ、マウンテンデューなど大手炭酸飲料を敵に回す、「なう」な広告の極め付けなのかもしれないと思ったので、AIネタに次ぐ2位に選出しました。
<時代を感じる部門3位>
Snapchat - "Less social media. More Snapchat."
スナチャは"他と違う"と訴える。
”完璧”な画像を追求するために自分にどんどんフィルターをかけたり、”インフルエンサー”ライフスタイルを求めて人生の本質を見失ったり、”迷惑系”コンテンツで社会に迷惑をかけたり、最悪なケースでは命を危険に晒したり。ソーシャルメディア上でより多くの「いいね!」を得るために人間のとる行動は計り知れないもので、最近ではマークザッカーバーグが米国上院にてSNSの影響で子供を失ったと訴える家族に謝罪する、といったニュースも見られた。
Snapchatはそういったソーシャルメディアから距離を置くようなメッセージを発信。InstagramやMeta (Facebook)と比べもっとプライベートな繋がりの中で楽しむコンテンツシェアアプリとしてのスタンスをとった。
ファミリーで視聴することが多いスーパーボウルのような機会だからこそ、ユーザーにも親世代にも語りかけられたのかもしれない。
<エンタメ部門優勝>
Dunkin’ - "The DunKings"
ダンキンは、アメリカのドーナツのファストフードチェーン。ダンキンとミスタードーナツ(Mister Donut)は、1950年代半ばに、義理の兄弟によって設立されたらしい。スーパーボウル常連の同チェーンのCMを取り上げるには、背景をしっかり理解いただく必要があるのだが、まずはご覧ください。
ベン・アフレック、マット・デイモン、トム・ブレイディ、ジャック・ハーロウ、ジェニファー・ロペス、ファット・ジョー。色んな意味で優勝ではないでしょうか。
このキャンペーン、このCMにだけじゃないんです。ストーリーがあるんです。それは、遡ること4年前、、、、、
アカデミー賞受賞俳優ベン・アフレックは、Dunkin'のテイクアウトをこぼしちゃう様子をパパラッチに撮られてしまう。その写真はバイラルになるどころか、ベンがパパラッチに撮られる写真はいつもDunkin'のコーヒーを飲んでいて、それがmeme化。
その結果Dunkin'は、ベンをブランドアンバサダーに起用。
昨年のBig Game spotではベンがドライブスルーの店員に扮しカスタマーが驚く様子をフェイクドキュメント風にまとめ、締めには奥さんのジェニファーロペスが登場。「あんたこんなとこで何やってんの?1日中仕事だって、このことなわけ?」と”仕事場”に突如現れた奥様に呆れられてしまう。
今年1月。音楽の祭典グラミー賞にて流れたこのスポット。前年のグラミー賞授賞式の席で、出席者をとらえるカメラに映るベンの表情が超つまらそう(妻で歌手のジェニファーロペスと同席するも、彼の表情はまるで音楽に興味のないおっさん」風に見えてしまっていた)なのがmeme化した事実を捉え、「俺はつまらなくない、音楽好きだもん!」と音楽に対する何か新しいことを始めようとしている様子が「To be continured…」というコピーと一緒に放映された。
実はこれが今年のbig game spotのティザーだったのだ。
前年の予期せぬ妻の職場訪問や、音楽の世界に興味なさそうというレッテルを貼られた事を根に持ったベンは、彼に賛同した仲間たち、マット・デイモンとトム・ブレイディー(Super Bowl史上最多の10回出場、7回優勝したアメフト選手)と音楽ユニット「The DunKings (ザ・ダンキングス)」を結成し、妻の仕事場・レコーディングスタジオに乗り込む。今回こそ、ベンは妻ジェニファー・ロペスのハートを掴むことができるのか?!
Dunkin'のYouTubeチャンネルではビハインド・ザ・シーン クリップも視聴できるので是非。
<エモーショナル部門優勝>
Google - "Javier in Frame"
ど直球に、優等生。
視覚障害のある男性が、Google Pixelの音声ガイド付きカメラを使って人生のキーモーメントをスナップしていくという、シンプルなストーリー。「2人がフレーム内に収まっています」といった音声ガイドに従って夫婦のセルフィーを撮影するのだが、最後は「3人」になっているのだ。
アクセシビリティ機能をシンプルに、ハートフルに伝える、Googleらしい広告。
<残念賞>
Squarespace - "Hello Down There"
ウェブサイト制作に必要な要素すべて提供しているオールインワンプラットフォーム、Squarespace。スーパーボウル広告常連となった彼らの今年のスポットのコンセプト:「最近人はスマホばっか見てるからUFOが飛んでたって気づかない。人間たちの(無)反応に悲しんだエイリアンがとった行動とは?」
デジタル端末をハックでもしないと現代人の注目は得られない、ということに気づいたエイリアンは、かっこいいウェブサイトを作ってやっと人々に気づいてもらえた、というオチ。
昨年のThe Singularityで多くの広告賞で注目を浴びたSquarespace, 今年はマーティン・スコセッシを監督に、映画『バービー』の撮影監督Rodrigo Prietoを迎えた超大作?
結果は、、、
中身のないスポット。何を売りたいのか不明で、マーティン・スコセッシのカメオ出演も微妙なオチとなってしまっている。Websiteを作っても人類の全デバイスはハックできないし、あまり効果的な広告メッセージにはならなかったように感じました。
<残念賞2位>
NYX Cosmetics - "That’s Suspicious…"
Super Bowl初出稿のコスメブランドNYXは、CM本編の放送がNFLに却下された。代わりに放映されたのは、本編の舞台裏っぽい設定の15秒版。本編はなぜ却下されたのか?
まずは見てみましょう。
前半はリップのボリュームをアヒルくらい大きく見せるのが売り文句のDuck Plumper (リップグロス)の広告に始まり、後半はDuck Plumperの間違った使い方に注意喚起をするフェイクのニュース映像が続く。その間違った使用方法とは。
男性たちがDuck Plumperをdick(男性器) plumperと履き違え、あそこをでっかくしようとしているという話。笑
(会社のアカウントでこんなこと書いてごめんなさい)
過去にも過激すぎて放映NGが出たCMはあったそうですが、今回NYXの初めてのBig game adということで、同社にとって学びのある挑戦になったのではないでしょうか。(?)
最後に
いかがでしたでしょうか。個人の視点のため、バイアスかかった厳選になっているかもしれませんが、大手企業が何十億も費やして制作するコマーシャルが少しでも多くの人に届きますように!
おまけ
歴代Super Bowl広告で、私のお気に入りを載せておきます。
monopoってなんなの?もっとmonopoのことを知りたい! という方はぜひこちらをご一読ください。