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NY拠点のアーティストKaryn Nakamuraによる個展「noise pile」初日レポート

12月9日(土)から原宿のコンセプトストア「DOMICILE TOKYO」にて開催されている「noise pile」。ニューヨークを拠点に活動する日本人アーティストKaryn NakamuraがジャズデュオのHuman Squaredを迎え、インスタレーション作品を展示しています。
Karyn Nakamuraはかつてmonopo Tokyoでインターンシップとして働いていたことがあり、monopoの有志で初日に展示とライブパフォーマンスを観に行ってきました。


プロフィール

Karyn Nakamura

2001年生まれ東京渋谷区出身。マサチューセッツ工科大学にて芸術とデザインの学士号を取得した後、現在はニューヨークを拠点に活動。作品では主に映像、ライブカメラ、コンピュータービジョン、音楽を通して、技術の破壊というテーマを一貫して提示しています。これまでに大規模なインスタレーション作品を複数発表しており、近年の作品に10階建ての約122m幅の建物へのプロジェクション『116X21』、一般開放された廃墟のパブを舞台にした20チャンネルのビデオパフォーマンス『BREAK MY BODY LIBERATE MY SOUL』など。他にも大学寮の浴室の洗面台に設置したアナログテレビを用いた作品や、廊下に設置したLEDサインで構成された作品など。
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YouTube / Karyn Nakamura: Art ∩ Technology at MIT | Short Documentary


Human Squared

ニューヨークを拠点とするジャズドラマーのGabe Warshaw とジャズ・キーボーディストの Mercer Shavelson によるエレクトロニック・ジャズ・デュオです。伝統的なジャズと現代的な音響を融合させ、ライブパフォーマンスを通じてジャンルを超えた即興音楽を展開します。

演者の顔は見えない、新しいライブ体験

展示初日なのもあってか、会場の外まで人々が溢れるほどの盛況ぶりを見せていました。会場の1/3くらいを占めていた展示の前に座り、目の前でライブパフォーマンスを鑑賞しました。

monopoチームは最前線の陣取りに成功

正面から見ると、不規則に配置された照明スタンド、カメラ三脚、楽器スタンドによって演者たちの顔が隠れ、観客は演者たちの顔を直接見ることは難しく、代わりに無造作に配置された複数のディスプレイに映し出された、彼らの目、鼻、口といったパーツを観ることになります。ディスプレイに映る映像は時折入れ替わったり、エフェクトがかかってグラフィックアートとなり、音楽と合わせてセッションをしているようでした。
観客は、演者を直接見たいという気持ちと、彼らを想像する楽しさが交錯し、今までにないライブ体験ができます。

ドラムとキーボードのデュオでその場で作られた即興の音楽は、ニューヨークで活躍する著名なジャズミュージシャンたちを彷彿とさせるもので、まるでニューヨークのセッションバーにいるような感覚に陥りました。さらにGabeによるサンプリングパッドを叩きながらのプレイもあり、彼の生み出すbeatも合わさってヒップホップの要素も多分に感じられるものでした。

これを無料で観られるのか…?と感動したので、お時間のある方はぜひ観に行っていただけたらと思います。

左:キーボディストのMercer Shavelson
右:ドラマーのGabe Warshaw
演者の前にはたくさんのディスプレイと、
山のように積み上げられた照明スタンド、カメラ三脚、楽器スタンドたち
音楽に合わせてディスプレイの表示を切り替えるKarynさん
外まで溢れる観客

Karynさんへのインタビュー

Karynさんにアーティストになるまでのことや、今後創作してみたいこと、NYCの現在についてなどをお聞きしてみました。

――日本での生活からMIT進学〜アーティストになるまでの経緯を教えてください。

Karynさん:私は3歳から18歳まで、東京の小さなインターナショナルスクールに通っていました。全て女子校で、みんな勉強熱心でしたね。中学と高校では物理と日本史が特に好きでした。夏休みはスタンフォードで物理のプログラムによく参加していました。クラスではパソコンで色々なことを調べたり、授業中に関係のない本を読んだり、テスラコイルを作ったりしていました。私ができることを見て先生たちが評価してくれて、自由を与えてくれました。高校生時代の後半には、勉強やテストの必要性がわからなくなり嫌悪感を持つようになりました。大学は20校ほどに申し込みましたが、最終的に最もフレキシブルなカリキュラムを提供してくれるMITに進学を決めました。

MITの1年目に、今でもファンである2人の教授に出会いました。一人は建築・デザインの教授、もう一人はシアターのテクニカルインストラクターでした。また、ドームと呼ばれる個性的な住居に住んでいたのですが、そこはオルタナティブでアナーキストな環境でした(以下Instagramの写真)。ここで自分の軸を強くして社会に流されないようにする力が強くなったと思います。

2020年にはコロナ禍のために日本に戻らなければならず、その後半年間はオンラインで授業を受けていました。2021年春にオンライン授業に嫌気がさし、休学してmonopoでインターンを始めました。その夏、Joshというテクニカルインストラクターの助けを借りて、スタジオを借りて朝から夜まで創作していました。アートの世界は全く知らなかったのですが、それから毎日何かを作ることが日常になりました。

MITは理系の学校で、アートやデザインを追求するには闘わなければなりませんでしたが、Joshをはじめ先生や友人たちのサポートがありました。私の作品は、単に自分がやりたいことを形にしたものですが、作品を通じてさまざまな人に出会えることが楽しくて作り続けていました。本来は今頃の時期に卒業する予定でしたが、急遽今年の2月に卒業したいと思い立ち、色々と調整して今年の6月に卒業しました。卒業後はNYに拠点を移しました。


――Karynさんが今追っているテーマや、これから取り組んでみたいことを教えてください。

Karynさん:私の活動のテーマは、さまざまなシステムの背後にある構造や仕組みを分解し、分析して理解し、新たに組み立て直して表に出すことです。MITでは、友人や教授たちを通して技術進歩のプロセスや背景を見ることができました。その中で、技術が生まれるプロセスは、多くの人々の日々の経験や、モラル、政治、方針の衝突を経て、最終的には個々の人間の判断に基づくものだと理解できました。
テクノロジーの限界を押し広げているのは、そのテクノロジーを作った人たちが想像する人間とテクノロジーの関係や、テクノロジーを通したコミュニケーションの形を超えて、何か別のものを探しているからだと思います。
私はアーティストとしてだけでなくあらゆる活動で、色々なものの構造、仕組み、文化、歴史を掘り下げていきたいと思います。それらを理解した上で、新しいことに挑戦し、見つけたことを共有していきたいと考えています。ただ、必ずしもそのアウトプットが多くの人に向けた作品になるとは思っていません。
と言いつつも、実際には今日明日やりたいことで常に頭がいっぱいです。


――monopoにいた当時の経験について、どんな印象を持っていますか?

Karynさん:monopoにいたのは2021年春のコロナ禍真っ只中で、ほとんどリモートワークでした。それでもmonopoのコミュニティの強さを強く感じました。最初はInstagramでmonopoを見つけて良いコミュニティだと思って他んですが、実際にZoomでのミーティングやピッチ、ランチやmonopo nightのイベントに参加して、「チームワークってこういうことなんだ!」と思いました。
在籍期間は3ヶ月と短かったので、monopoで私がどうフィットするかは見つけられていませんでした。ただ、当時ほとんど私がアーティストとして何も作っていない時期であっても、monopoの皆さんにクリエイティブとしてのポテンシャルを感じると言ってもらえたことは自信につながりました。デザインチームではあまり活躍できなかったものの、自分はアイデアを生み出し実現させるまで闘うことがやりたいことで得意であることに気付きました。


――Human Squaredとの関係や、今回の展示をすることになった経緯を教えてください。

Karynさん:アイデアのベースは2年前、ライブビデオとカメラの実験を始めた頃に思いついたのですが、当時の技術はまだあまり進んでなく追跡機能を完全に実現するのは難しかったので、しばらくアイデアを保留していました。
同年の夏頃、ライブショー用のインスタレーションセットのアイデアをピッチしました。当時NYのジャズバーで働いていたので、身近で見るミュージシャンたちに影響を受けたんだと思います。結果的にその企画は実現しませんでしたが、たくさんの人と話してこのプロジェクトを実現させる方法を模索していました。
そして2年前に出会った友人がいて、彼は私のInstagramをフォローしてくれていました。彼に自分のアイデアを伝えたところ、この展示のプロデュースやキュレーションを彼が引き受けてくれました。そしてアイデアを実現できそうな会場を探す中で最も良さそうだったのがDOMICILEで、彼がディレクターに話をしてくれたところ私のアイデアを歓迎してくれて、今年の9月末に開催場所が決まりました。彼はさらに、渋谷のMODIとタワーレコードの大画面にnoise pileの広告とビデオコンテンツを30秒ずつ放映する機会を手配してくれました。

それからは、技術的な部分をどう実現するかに大きなプレッシャーを感じていました。MIT以外の場所で何かを作るのは初めてで、日本の家で部品のプロトタイピングをしていましたが、結局ボストンに短期間行って、先生たちのサポートを受けてプロトタイプを作りました。それから借りた機材をDOMICILEに持ってきました。
この展示のために少し資金を集める必要があったんですが、Kickstarterを始め、多くのアーティストがサポートしてくれたおかげで、2千ドルの目標をすぐに達成することができました。また、monopoの岡田さんに展示に必要な機材を借りられないか相談しました。Instagramでの呼びかけにもmonopoのメンバーが何人か応えてくれました。さらに、NFTプラットフォームの「PROOF」から大きな寄付も受けられました。

音楽に関しては、どんなミュージシャンでも演奏できるセットにしようと考えていました。これまで私はミュージシャンと共に作品を作った経験はありませんでした。今回オファーをしたHuman SquaredのメンバーであるドラマーのGabeとキーボードのMercerは素晴らしいミュージシャンで、二人ともなかなか忙しくて参加の確認に時間がかかりました。

ハード面に関しては、展示には強力なコンピュータが必要だったので、色々とリサーチを重ねて今回専用のコンピュータを自分で組み立てました。
11月の終わりに3台のコンピュータを持って日本に来て、リユースセンターや電気店を駆け回ったり、ヤフオクで安いドラムのハードウェアを探したりして、必要なものを揃えていきました。開催の3日前にDOMICILEに入り、揃えた機材をセッティングしました。
私はいつもかなり野心的ですが、今回の展示が実現できたことは信じられません。


――現在のニューヨークのメディアアートシーンはどのようなものですか?

Karyn:ニューヨークのメディアアートシーンについては正直私はそこまで語れないです。工学校出身ということでアート界では異質な存在感でしたが、そのおかげでニューヨークのさまざまなアートコミュニティに触れる機会を得られたなと思います。
ニューヨークではアートだけで生活するのは難しく、みんながさまざまなことに関わりながらなんとかアートの活動をしています。ニューヨークにいる人はみんな何か大きなことを成し遂げようとしています。毎日、そんな人たちに囲まれていることはとても刺激的です。
技術畑のオタクの世界から来た私のことを魔法使いだと思っているビジュアルアーティストたちや、私が働いているジャズバーの人たちと過ごすことで、みんなの世界や夢を知ることができて、とても発見があるし頑張ろうと思えます。今回の展示において、自分たちと直接関係があるかどうかに関わらず、色々なコミュニティのみんながサポートしてくれたのはとても嬉しく感激しました。


展示は12/17(日)まで

monopoと縁した方がこのように世界で活躍されているのはとても嬉しいことです。Karynさんの今後の活躍が楽しみですし、monopoとしても応援していきたいと思います。

「noise pile」は原宿DOMICILE TOKYOにて12月17日(日)まで開催されています。ライブパフォーマンスもまた11, 14, 15, 16日の19〜20時に行われるようです。ご興味ある方はぜひ足をお運びください。(ジャズやヒップホップがお好きな方はお楽しみいただけるはずです!)


執筆:石原 杏奈 (@anna_ishr
撮影:馬場 雄介 Beyond the Lenz (@yusukebaba

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