努力が才能を上回るのは二流まで

武術研究家のモノノフです。残酷な題にしてみました。僕は才能のない人間で、自分でも凡人と自覚しています。自分が何ヶ月もかかるようなことをヒョヒョイとできるひとを見てきたし、自分の見た目についても色々と思うところがあります。しかし、僕は人一倍の努力をし、空手などの競技で勝利をしてきました。そのために犠牲にしてきたものは計り知れません。

よく『努力が才能を上回る』みたいなことを言うひとがいますが、それはその才能がたかが知れているだけで僕の言うレベルの才能ではありません。本当の才能とはそんなものじゃないどうしようもないところに存在するのです。

僕は格闘技や武道の世界は現代における厳しい世界だと思っていました。いくら頑張っても勝てない相手や、明らかに自分より練習量の少ないひとに負けるなんてこともあるのです。しかし、先日見たテレビ番組でとんでもなく残酷な話をみました。それは『バレエの王子になる!』と言うNHKの男性バレエダンサーの学校の話です。

ロシア・ワガノワ・アカデミーという世界屈指のバレエ学校に通う男の子たちの話です。そこでツェスカリーゼ校長は言うのです。

「努力しかない!努力!努力!努力!努力!努力!」

「観客は水泡しか見ていない。水泡の中には努力や汗や血が混じっているが、そこを見せてはいけない。美しさ優雅さだけを見せるのだ!」と。

いやいや、その世界屈指の学校の先生も『努力』って言っているじゃないかと思うかも知れません。この学校は超一流のバレエダンサーを養成する学校です。身長が足りないことや、容姿が伴わなければそもそも入学すらできないのです。バレエ学校なので女性が多いのですが、太る(一般的には問題ないレベル。学校が決めた基準を超える)と退学なのだ。卒業までに半分ぐらい退学になるそうです。成長期の女性なので太りやすい子もいるのです。

その中で4人ほど生徒が取り上げられていたのですが、ミーシャという成績トップの生徒は見た目も良く、努力もし、実力がある文句なしのトップでした。この生徒は才能と努力の揃っている文句なしの絵に描いたようなバレエダンサーでした。

僕が注目したのは他の二人、アロンとキリルという生徒です。アロンは身長に恵まれてはいないものの、努力で誰よりも高く飛び、スピンも非常にうまい生徒です。キリルは見た目は完璧、モデルの仕事をバイトとするほどで、モデルのバイトを始めたらすぐにVogueの表紙というとんでもない見た目の才能の持ち主です。しかし、努力を怠っており、バレエの技術はあまりという生徒でした。

僕としてはアロンを応援したくなるところです。お父さんはアメリカ人、お母さんは日本人で、お母さんのおじさんは第46代横綱の朝潮という日本人的にはなかなかの血統です。しかし、バレエをするには175cmとバレエをする男性としては少し小柄です。バレエでは女性はトウで立っているので、トウで立っている女性より頭が少し抜けているぐらいでないと見栄えがしないのです。

それに対しキリルは身長も180cm後半、顔の作りも良く、頭身バランスも完璧。ツェスカリーゼ校長も美しさは完璧だと言っています。しかし、努力をしない。でも努力をしなくてもうまくいってしまうのです。
ツェスカリーゼ校長は言います。

「君に「美しい」というものは全員敵だと思え!」

と。今キリルに必要なのは罵倒されて練習が必要だと思わせることだと。できないことを自覚させることだとツェスカリーゼ校長は考えているわけです。

卒業後の就職先はロシアのボリショイかマリンスキー、パリのオペラ座、この3つが世界トップでそれ以外はどうでもいいぐらいのノリでツェスカリーゼ校長は言います。この中で就職活動がうまくいかない生徒もいたのですが(最終的にはみんなどこかに合格)、キリルはここでもシレッとボリショイに合格してしまうのです。

そしてワガノワの卒業公演があるのです。一番いい役は当然ミーシャですが、アロンはある演目の王子の役をもらうことになるのです。素晴らしいことだと思うでしょう?
そこでツェスカリーゼ校長は言います。

「アロンにロシアで王子の役はない。」

努力とかそういうことではなく、身長や見た目の問題です。卒業してから王子の役はないだろうから卒業公演ぐらい王子の役をやらせてあげようというツェスカリーゼ校長の親心なのです。

キリルはどうなったかというと卒業公演に役を当てられていたのですが、練習態度が良くないので降ろされてしまいます。でも就職もボリショイで決まっているので、ヘラヘラしているのです。公演の裏でカメラマンみたいなことをしているとツェスカリーぜ校長になじられます。

「怠け者め!」

苦笑いするキリル。最後のインタビューでは自分の愚かさを恥じ、ボリショイでは誰よりも練習すると言っていました。実際どうなるかはわかりませんが。

さて、今後どうなったかはまた別のお話になるのですが、男性のバレエダンサーのトップクラスをプリンシパルというそうです。このプリンシパルになれる可能性はアロンとキリルではどちらの方があるのでしょうか。

アロンは0%ですが、キリルは努力できるようになれば可能性はまだあるのです。

これが才能の差です!

才能とは理不尽なもので世界のトップクラスではひっくり返すことができません。なぜなら本当の世界のトップは才能もあり、努力も怠らないからです。努力だけではどうにもならないのです。

僕が競技としてなんとか結果を出したりしているのはレベルがまだそこまで高くないからです。ほとんどのひとが世界レベルで戦いませんから、『努力』でいいかもしれませんが、僕は綺麗事でなんとかなるほど『努力』と『才能』の差は小さいものではないと考えています。

僕はバレエをすごい競技だと思って研究をしていました。姿勢のこともバレエのシステムは本当によくできています。決してナメていたわけではなかったのですが、僕が思っている以上に厳しい世界だったという印象を受けました。

モノノフ

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