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合気上げを2時間でできるようにする

先日、某業界で有名な先生にあった。僕はその先生の講義を聞いたことがある。その時に発勁のようなものをしていた。ご自身の興味の中で試行錯誤しているのがみてとれて偉そうな立場でものをいうなら微笑ましかった。素人が一生懸命研究した感じが見てとれたのだ。僕が助言したらきっともっと理解が深まるのになと思っていた。
その人が日本にいる人なら道場に行ったりしていただろう。しかしその人は海外住まいなのだ。おそらくYouTubeなどの動画だけで一生懸命研究したのだろう。知り合いのつてもあり、講義を聞いたときに名刺を交換していた。普通のひとならそこまでだろう。僕は絶対にメールを送る。自分の特徴などを付け加えて。相手はおそらくあいつだなとなる。そうなるとその他大勢と埋もれないのだ。
その中に武術関連の話を入れておいた。海外住まいで4年振りの日本と言っていたので、いつかどこかで会えたらと種を蒔いたのだ。
そうすると、興味を引いたのだろう。僕も話を聞きたいというのだ。「いついつに関西に行く用事があるので、この日に時間が取れませんか?」というのだ。
仕事のできるひとはこれがある。めちゃくちゃテンポが速いのだ。こういう興味があることとか知的好奇心をくすぐられたらいてもたってもいられないのだ。
これは乗らない手はない。僕の返事はもちろんYESだ。
数日しか準備期間はなかったが、講義と実習を踏まえて2時間ぐらいの内容にした。

まず講義をした。立つとはいかに難しいかという話だ。ロボット工学や二足歩行について説明した。解剖などがすでに頭に入っているので説明も少なくていいし、地頭の良さから理解もスムーズだ。僕は一応科学者でもあるので論文をベースにしている。それも納得してもらえた。その前提を踏まえた上で、実技に入ろう。
まず現状を理解してもらう。立ってもらって前後左右から押してみたり、上から押さえたりした。全然揃っていない。やりがいがある。この感覚を覚えておくように指示をしておく。

そこで聞いてみるこの先生は一流のアスリートを診ている。
「アスリートと身体がぶつかったりしたときに聞いている体重異常に重く感じることはありませんか?」その応えは「あります。」
そこで僕は自分が仰向けに寝て、その先生に僕の身体を持ってもらう。腰あたりから上げてもらうのだが、まずは一般人モードで上げてもらう。その感覚にはいはいとなる。そして達人モードというか、一流のアスリートモードになる。そうすると一切身体は持ち上がらない。この感じをしてもらいますという。すでに先生は驚いている。
先生に仰向けで寝てもらう。当然腰から持ち上がる。そしてポイントを教える。特に2点のポイントを重点的に話をする。それらのポイントを押さえるともう持ち上がらない。どうですか?となる。
一流のアスリートを診ているひとは体感があるので、感覚に心当たりがあるので、納得感が大きい。これはすごいとなった。

まだまだなのだが、それを意識してじゃあ実際立ってみましょう。
そうするとブレは無くなるし、上から押した時の安定感がすごい。それはやっている本人が一番わかっている。テキストデータで理解するのではない。身体の感覚で理解するのだ。
そしてケトルベルを持たせた。わざと重さは隠してある。「重さはどのくらいに感じますか?」応えは「結構重いのでね。10kgぐらいでしょうか?」という。ケトルベルを肩に担がせてみた。「形もあると思いますが、何個担げそうですか?3は全然大丈夫そうですね?5個ぐらいいけそうですか?」というと「5個はいけそうです。」という。
さて、このケトルベルの重さはというと20kgだ。やっている本人が「えっ?」となった。5個ぐらいいけそうというのは100kg担げると言っているのと同じなのだ。
「先生、いいですか?ちなみに一俵は60kgです。今のなら全く運動経験のない先生でも60kgは担げそうじゃないですか?昔はみんな農作業して鍛えられていたことを考えると60kgちょろいと思いませんか?昔は税金を米で納めていたので、60kgっていう重さは成人女性なら誰でも一人で運べるよねぐらいの重さで決まったんじゃないか、と言われています。でないと男手がないと運べなくなる。男手ないから税金払えませんなんてことは許されない。」という話をした。
「これをやる前なら60kgなんて無理だと思いますが、今はそれはそうだなと思います。」とのことだった。

そして、歩くということについての講義をした。もう長くなったので、ここでは話を割愛するが、すごく基本的な内容の話をした。
その中で自分の力でケガをするのはナンセンスだと言った。身体の使い方が悪いからだと。重さが抜けてから動かす脚がケガをするわけがないのだ。

本当はここまでのつもりだったのだが、合気に興味があるということだったので少し遊んでみた。合気を感じるためには力のつながりを感じなければならない。わかるひとはわかると思うのだが、2教の形について説明した。まず手をもつ。手首を90度にする。手を掴んでいるが手首まで力が入っているのを感じてもらう。そのまま肘、肩と相手に宣言をしてどこまで繋がっているのか感じてもらう。そして相手の重心を掴む。ここまで行くと相手は腕が固まっているが感じない。僕は手を掴んでいるが、相手の重心を掴んでいる。そして僕の手は自分の重心に繋がっている。相手は手を掴まれているとしか思っていないのに重心が掴まれているので、頭がパニックを起こすのだ。この状態で僕がしゃがむと相手は自分の意思とは関係なく一緒にしゃがむ。これに非常に驚いてくれた。
「確かに。言われてやられたらそうですが、見た目だけではわからないです。」ということだった。
合気は色々な考え方があるがこれがそのうちのひとつだという説明に留めた。

以上を踏まえてでは合気上げをしてみましょうということになった。
お互い正座をし、相手は僕の膝の上にある手首をぎゅっと押さえつける。
そして僕はスッと手をあげる。先生は驚く。「えっ?!すいませんもう一度いいですか?」、「どうぞ」何度も繰り返した。先生は不思議そうに何度も体験した。
しかも僕の手は力が入っていない。指をふにゃふにゃしてみせた。

この時僕は小指からあげるということや一度後ろに引くような小手先の技は一切使わなかったし説明もしなかった。そう、僕は合気上げをしたのではない。ただただ身体の機能を使って腕を上げただけなのだ。それを合気上げと呼べが合気上げということになるし、何か技名をつければそういう名前の技になるだろう。ただただ身体の出力を上げただけなのだ。
そもそも僕はコロナ前に少し合気道道場に通っていただけで合気道は有段者でもない。

そうこうしているうちに一時間半ほど経っていた。
先生は「濃密な時間でした。ありがとうございました。この借りは必ず返します。」とのことだった。
その後もメールをやりとりしているのだが、従兄弟にやってみたら僕ほどはうまくできなかったが合気上げっぽいことをできたというのだ。従兄弟は困惑していたとのこと。
僕はこのひとに文字通り小手先の技を教えていない。ただただ身体の本質を教えただけなのだ。正直この後やる武道や拳法はなんでもいい。まずこれを理解できるか否かが大事で全てのベースになる部分なのだ。
僕は身体にOS(身体操作の感覚)を入れただけで、その後のソフト(武道や拳法)は何をインストールしてもいいのだ。なんならスポーツでもいい。

どの合気道道場に行ってもその日きたひとが合気上げのように腕を上げられるようになる道場はあるまい。おそらく今回きた先生はその辺の合気道家よりはかなり強くなったと思う。

僕は武術研究家でなんちゃって武術家だ。正直武術家としては偽物だろう。似たようなことをしているひともいっぱいいる。そういう人の中で自分はできても教え子ができている人はどれくらいいるだろうか?僕はみたことがない。僕は1日で運動経験のない素人をある程度できるようにした。しかも2時間もかかっていない。

この先生が興味に対して貪欲だったのもある。それを踏まえてもこれを実現できたのは僕にとっても財産になった。

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