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福岡から、愛|東京・銀座


「あんたには気散じが必要と。行ってきんしゃい」
「でも」
「よかよか。そんために来よるんよ」
お義母さんはにーっと笑った。

娘が生まれて半年。不妊治療の末にやっと授かった子だ。
嬉しくて仕方なかったのに、毎晩の夜泣きにすっかり参っていた。

制度はあっても実際に休む人は少ない、と夫はほんの数日大騒ぎして「育児より仕事の方が楽」と父親になる前の生活に戻ってしまった。
そう認めただけでも育休の意味はあったかもしれない。

久しぶりの一人での外出。
12月の銀座。
一歩ごとに申し訳ない気持ちが軽くなり、足取りも軽くなる。
半年ぶりのヘアカット。つやを取り戻した髪に気持ちも華やぐ。
ウィンドウの薔薇色のセーターが目にとまり、試着しようと店に入って胸の張りを感じた。
結局、色違いのマフラーを買った。娘と私とお義母さんの。

予定より早く玄関のドアを開けたら、いい匂いが漂ってきた。
今宵はお義母さんのがめ煮で、女同士の会話を楽しもう。


「気散じ」(きさんじ)・・・気晴らし。


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