【ものづくりイベントレポ―ト|後編】RENEW・福井県越前鯖江エリア
はじめに
RENEW(リニュー)は、福井県の鯖江市・越前市・越前町という伝統工芸の産地を中心に、年に一度、3日間にわたり開催される持続可能な地域づくりを目指す産業観光イベントです。
前編ではRENEW関連施設や刃物の工場見学、漆器のワークショップ体験などをお届けしました。後編では瓦の工場見学、眼鏡のワークショップの様子や同時開催の特別イベントについてのレポートをお届けします!
イベントレポート
鯖江眼鏡|谷口眼鏡 眼鏡作りワークショップ
福井県のものづくりの筆頭といえば眼鏡産業といっても過言ではないでしょう。編集部一行は眼鏡製造の流れを学ぶべく、谷口眼鏡へと足を運びました。
谷口眼鏡はRENEW総合案内所が設置されている、うるしの里会館から徒歩5分程度の場所にあります。
眼鏡作りには多くの工程がありますが、中でも興味深かったのは、「ガラ」という工程です。正確には「バレル研磨」という工程で、バレルという大きな箱の中に、眼鏡のフレーム・チップ・研磨剤を入れて回転させ、フレームの傷を取りツヤを出す工程です。回転時、ガラガラと音が鳴るため、鯖江では「ガラ」と呼ばれているそうです。
じっくり工場見学させていただき、ついにワークショップの時間です。谷口眼鏡の職人さんと共に眼鏡を作ります。
様々な種類の中から、眼鏡のフロント(眼鏡フレームの前面部)とテンプル(耳にかける部品。アームやツルとも呼ばれる。)を選び、組み立てて、ヤスリで整え、磨いてツヤを出していきます。
フロントとテンプルを組み立てたときに、繋がる部分(眼鏡を畳むときに折れる部分)のことを「合口(あいくち)」と言います。開いた時に隙間が出ないように、作業中は常に最大限までテンプルを開いた状態を保ちながら削るのがコツです。
羽布(バフ)と呼ばれる布製の研磨輪(ホイール状の研磨道具)に研磨剤をつけて回転させ、そこに眼鏡を当てて傷を取っていきます。荒い羽布を使った傷取りから始まり、最終的には柔らかい布でツヤを出していきます。
粗い羽布を使った傷取りから始まり、最終的には柔らかい布でツヤを出していきます。羽布は布製なので眼鏡にあてた瞬間に大きく削れるといったことはありませんが、しばらく当てているとそこだけ凹んでしまいます。フレームを左右対称にしたいと思うほど、細かいバランスが気になりました。
テンプルに熱を加えて、自分の顔にフィットする形状に調整します。熱を加えているので曲げやすくはなっているのですが、なかなか硬く、力のいる作業でした。
テンプルに名前と日付を彫刻していただき、約2週間後自宅に届きました。人生初のオリジナルの眼鏡は、かけ心地が良くお気に入りの眼鏡になりました。ワークショップは3時間を超える長丁場でしたが、とても貴重な体験でした。読者のみなさんも是非体験してみてください!おしゃれ伊達眼鏡としてもおすすめです。
越前焼|越前セラミカ
眼鏡工場見学の次は、瓦などの焼き物を生産している「越前セラミカ」さんの工場にお邪魔しました。
ここで製造されている瓦は、銀鼠色(ぎんねずいろ)と呼ばれるグレーで、日にあたると鈍い光沢の出る質感が特徴です。
愛知や島根などの有名な瓦の産地と比べて高温で焼くため、瓦屋根の上に雪が1m以上積もっても割れない強い耐久性を持ちます。ザラザラしている表面は、屋根の雪下ろしの際に滑らないグリップの役目も果たします。
工場内はとても広くて、ジェットコースターのレールのようなものが内部にぐるぐると敷かれ、瓦を1枚ずつ運びます。テーマパークに来たみたいでワクワク!
工場ではフル稼働で1日に4000枚、手仕事での製造では1人で1日に2-300枚ほどの製造が可能だそうです。しかし、最近建てられる住宅は瓦を使わないものがとても多く、生産量を抑えるため、工場の稼働を5割程度に調整しているそうです。
そんな中でも瓦の仕事を続けられるのは瓦生産だけでなく、外壁用タイルの生産や屋根などの工事を請け負っているからだと言います。
また、昨年から新しい取り組みとして、中が空洞になった焼物づくりを始めました。通常の瓦は粘土を型に押し固めて作りますが、中を空洞に作るには特殊な溶剤でドロドロにしたあとに型に流し込み、外側だけを固めるという特殊な工程が必要です。中が空洞になったチョコレートを作るのと同じ工程です。
かっこいい瓦ばかり見ていたら瓦屋根の家に住みたくなってきました。
読者のみなさんも瓦屋根、検討してみませんか?
トークイベント
RENEWでは期間中に9つのトークイベントが開催されます。ものづくりから地域活動まで幅広いテーマが揃っています。
私たちは「地域宿の作り方」というトークに参加しました。
富山県の建築家、山川さんと福井県でまちづくりに関わる時岡さんのトーク会場はほぼ満席。来場者も様々な年代の人がうなずきながら、時にはメモを取りながら聞いていました。
トークで紹介されていたのは職人に弟子入りできる宿、「Bed and Craft」。職人に弟子入りできる宿をコンセプトに1日1組限定の6つの宿を運営しています。
宿泊者は、木彫刻や漆の職人のもとに弟子入りし、実際にものづくりに触れることができます。
また、街全体にレストランやフロントなどの機能を分散させる、「分散型ホテル」でもあります。宿泊者が街なかにあるレストランなどを利用することで滞在拠点の中だけではなく、街全体の中で人の流れが生まれます。
宿泊とものづくりを組み合わせることで、「滞在」に街と訪問者を繋ぐ拠点として新たな価値が生まれます。
イベントで工場を街に開くのとはまた違った産業観光の取り組みです。消費者の中で、完成された製品をそのまま受け取るだけでなく、自らバックグラウンドを体験しに行く流れが広がっています。
同時開催特別イベント!「まち/ひと/しごと」
トークイベントと同じく、うるしの里会館で特別企画として開催される「まち/ひと/しごと」
北は山形県、南は鹿児島県まで全国から個性豊かな地域の魅力が集まります。イベントはショップ型の博覧会と位置づけられていて、展示や物品の販売を通して、全国の地域活動を体感することができます。
ものづくり新聞で以前取材した、熊本県の竹箸製造会社、ヤマチクの出展も!ちなみにヤマチクの菜箸は編集部のほぼ全員が使っているという驚異的な愛用率です!
トークイベントに登壇した団体が運営する「八百熊川(やおくまがわ)ストア」の出展も。トークイベントだけでなく、実際に商品を見ながら地域活動の当事者の方とお話出来るまたとない機会でした。
一般の来場者からRENEWの参加企業まで来場するとてもいい雰囲気のマーケットです。
トラベルスタンド|福井伝統工芸職人塾・澤田隆司さん
うるしの里会館では「トラベルスタンド」という、地元でつくられたカップでドリンクを楽しみながら、RENEWを熟知したスタッフからおすすめの工場を紹介してもらえるというドリンクスタンドです。
7年目にして初の取り組みというこのドリンクスタンドにはものづくり旅のヒントが満載です。
私たちもドリンクを飲みながら越前鯖江エリアについて教えていただき、そこで「伝統工芸職人塾」というプログラムの存在を知りました。
伝統工芸職人塾とは、福井県の伝統的産業の担い手を発掘・育成するために、技能体験や座学などを行うプログラムです。長期と短期の2つの形態で参加することが出来ます。
実際に職人塾に参加している方はいるのかとスタッフの方に訪ねると、なんと急遽紹介してくださることになり、その日のRENEW終了後に塾生の方にインタビューできることになりました。このスピード感での取材はトラベルスタンドでしかできません。
コロナで大学は休みに。包丁職人へのあこがれを胸に福井ヘ。
ー-職人塾を知ったきっかけはなんですか
出身は茨城県で、高校卒業後は千葉県にある大学で機械系を専攻していました。でも2年生の時にコロナの影響で大学が休みになってしまいまいした。その空いた時間にインターンに行ってみようと思ったんです。
そして、インターネットで調べてみたら、福井県の伝統工芸職人塾を見つけました。福井の伝統工芸の中でも小さいころから興味があった「刃物」を調べて越前打刃物の紹介写真を見たときに、「かっこいい!」と感じて、福井に来ることを決めました。
ーーもともとものづくりに興味があったんですね。
小さいころに、テレビで包丁の職人さんを見て強い憧れを持っていました。1週間の短期インターンが終わって、2、3週間じっくり考えたあと、やっぱり職人を目指したいと心を決め、大学を辞めて親方に直接弟子入りしたいと連絡しました。その後しばらくのインターン期間を経て、正社員として会社に所属しています。
ーー今はどんなことをされていますか?
今は「タケフナイフビレッジ」という13社の刃物会社が共同で運営している工房に入居する加茂刃物製作所で正社員として働いています。
始めは、火造りという、刃物の材料を温めてハンマーで叩く作業から始めました。仕事というよりも、練習用の鉄を叩く練習です。一般的な工場では鍛冶と砥ぎの作業は分業ですが、両方とも出来る職人になるべく、指導してもらっています。
ーー一人前になるのにどれくらいの修行が必要ですか?
決まった期間があるわけではありませんが、およそ10年以上はかかると言われています。
ーーそんなに長い修業期間なのですね。打刃物の親方はどんな方ですか?
82歳になる僕の親方は、外から見たらただの社長と社員の関係ですが、おじいちゃんみたいに優しい存在です。あんなに元気な82歳は他に見たことがないです。
野菜の収穫に使う両刃包丁を農家さんと共同開発しているとてもすごい人です。例えば、白菜を傷めずに収穫するために曲がった刃物などを製作しています。
ーー職人塾が気になっている方に向けて、何かアドバイスはありますか?
職人塾は対象の伝統工芸が5つ(越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前焼、越前箪笥)があります。1つを追求したいと心を決めて参加する方はもちろん、「興味がある、やってみたい」という方も一歩踏み出してみてほしいと思います。職人塾では親方のもとで実際にものづくりを経験するだけではなく、福井のものづくりについて学べる座学もありました。
私は、「人一倍よく見ること」と「気になったらすぐ聞くこと」が大切だと先輩から教わりました。真面目にやっていると親方や先輩からかわいがってもらえると思います。
ーー今後の目標はなんですか?
親方は僕を一人前にするまで死ねないと言ってくれているので元気な親方に負けないように勉強して一人前になりたいですね。いつかは自分の名前で刃物を売れるようになりたいです。
ものメシ!RENEW出張版2
ものメシ!とは「ものづくり新聞取材メシ!」の略。日々製造業のみなさんの取材に励む記者には、ゆく先々でのおいしいグルメが欠かせません!ものメシ!ではそんなグルメなもの新編集部の取材メシを少しだけお伝えします。
今回は「ほやっ亭」さんの『山うにラーメン』を紹介します。
山うにとは、柚子、唐辛子、塩をすり混ぜてつくられた鯖江市伝統の薬味です。名前の由来は見た目が海で獲れるウニに似ているからだとか。(諸説あり)
5席ほどのこぢんまりとした店舗には、たびたび順場待ちのお客さんが列を作るそう。『山うにラーメン』は醤油と味噌の2種類があり、『山うにたこ焼き』もあります。
私たちは味噌ラーメンを注文。柚子のさわやかさと唐辛子のピリッと感が味噌味によく合います。あまりのおいしさに編集部へのお土産も山うにに決定です!
あとがき
RENEW来場者は福井県内はもちろん、全国からRENEWのため、ものづくりのために越前鯖江エリアを訪れます。工場から生まれたムーブメントが全国の人々を動かした結果です。
パンフレットを手に工場を巡っていると、文章や写真では知り得ない職人さんたちのこだわりや工場の音、ニオイに感動します。
工場にとっては日常でもその日常がとても面白いコンテンツになります。
RENEWには「ものづくりってかっこいいんだ」「ものづくりって面白い」といったものづくりへのリスペクトがあふれていました。
町工場から生まれた製品を使ったことが無い人は誰もいません。「ちょっと面白そう」からものづくりの裏側を見てみませんか。(ものづくり新聞 特派員 村山佑月)